飴とコーヒー【ジャーファル】 (ページ3)

今日:2 hit、昨日:3 hit、合計:10,394 hit

Lollipop ページ3

目の前が、霞む。思わず眉間のそばかすの上あたりを親指と人差し指でつねった。
眠い……。眠りたいという人間の生理的欲求が胸中を渦巻く。

ああ、あのバカ王がしっかりさえしていれば。
そうすれば、自分は他国の政務官のようにのうのうと美食や女を貪りながら日々を過ごせたはずなのだ。いや、それもそれで考えてみると嫌だ。結局、自分はあくせくと働くのが一番性に合っているのかもしれない。

「ジャーファル」

明るい声と、大き目のノックの音。大方シンドバッドだろう。また仕事を持ってきたのか。

「ジャーファル、いないのか」
「～～ッいますよ! さっさと入ってください」

眠気のせいか、つい語気が荒くなる。他に人がいるのか、うちの政務官無愛想ですまん、などと言う声が聞こえてから扉が開いた。余計なお世話だ。
ジャーファルは王を振り返らず仕事を続けた。

「ジャーファル、お前の許嫁を連れて来たんだ」
「はいはい分かりました。今机いっぱいなんで、私の膝の上に置いといてくださいよ」

手は止まらず書類に定型文やサインを書き込む。人生のうち今まで自分の名を何度書いただろうか。数えきれない。

「な、色欲魔人って言ったろ」
「そ、そんな……!」

後ろからひそひそ声が聞こえてくる。ああ、堪らなく鬱陶しい。
ついに耐えかねてジャーファルは背後を振り返った。

「仕事の邪魔したいんなら出てけ――」

三角にした濃いグレーの瞳が驚きに見開かれる。
シンドバッドに付き添われて不安気に立っていたのは、まるで西洋のおとぎ話からそのまんま抜け出してきたような、飴のように可愛らしい姫君だったのだ。