気付かないこと ページ38
夜、千尋はハクの部屋に来ていた。千尋に背を向けてベッドに座るハクに気を揉む。
「ねぇ、ハク? 一緒に話そうよ」
「……今はそんな気分じゃない」
つれない返事に溜息を吐く。つかつかとハクに歩み寄り、大きな音を立ててベッドの上に飛び乗った。スプリングが激しく揺れたが、ハクは依然として背を向けたままだった。
「私と婚約してから、ハクはずっと私と話す気分になってはくれないよね。一体どうすればいいの?」
「……さあな」
「Aとだったら何だってする気になるんでしょ?」
A、という言葉を聞きハクの滑らかな黒髪がぴくりと揺れた。千尋の目はそれを見逃さず、平常を装うハクの背から多くのものを読み取った。何故か、胸が擦り傷に消毒液をかけられたように鋭く痛む。
「やっぱりそうなのね。まだ好きなんだ」
「余計な世話だ」
「……私があの時婚約の話に乗ったこと、まだ怒ってるの?」
千尋はハクのうなじへ唇を寄せた。そっと背後から彼の体を抱き締める。風呂からあがった後の清潔な香りがした。
「離れろ」
「嫌よ。――ねぇ、ハク、私人間界に戻って頑張ったのよ。お勉強も、趣味も、あとスタイルも良く保つ為努力した。あの時、ハクは凄く輝いてたから、ずっとずっと私より遠い存在だったから少しでも近くなりたかったの。あなたに似合う人に。……でも、戻ってきたらあなたには恋人がいて、しかも私の大親友なのよ。Aのこと、大好きだから身を引こうと思っていたけれど……」
千尋はそっとハクの正面に回り込んだ。穏やかな翡翠色の瞳が、何の表情も映さずに彼女を見ていた。それだけで胸が高鳴る。憧れの人と今こんなに物質的に近くにいれる。
千尋は感情をおくびにも態度に出さなかった。彼女は年齢的には考えられない程艶っぽく微笑むと、そっとハクの両肩を押した。シーツに沈み込む二人を中心に皺ができる。
押し倒されてもハクは少しも表情を変えない。少し傷付いたが、いつかはこの態度も揺らぐはずと気を取り直した。
絶対またハクと想い合ってやる。
「私、決めたの。生半可な気持ちで過ごして後から後悔するくらいなら、最初から大胆不敵に挑んでやろうってね。可愛いだけの千尋ちゃんじゃ、駄目なんだって気が付いたの。私はもうAとの友情が壊れることも気にしない」
ああ、早く。
明るい茶の瞳が間接照明の灯りを受けてきらりと光る。千尋は、逸る気持ちを押さえてハクの陶器のような唇へ自身のそれを近付けた。
★ハクちゃまの秘密★
おかっぱと言われると腹が立つ。
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モッケ - 本当にごめんなさい、許してください (2015年6月27日 13時) (レス) id: 7cabc5d692 (このIDを非表示/違反報告)
星宙(プロフ) - 季紀さん» 年がら年中からかわれてたら嫌になるもん! おかすぃくないよー♪ やっちゃった…美影さん犯罪に手を出してしまった…←笑笑 (2015年5月23日 20時) (レス) id: d32e317eb5 (このIDを非表示/違反報告)
季紀(プロフ) - 星宙さん» からかいづらいと言われて喜ぶ人も私は初めて見た♪ おかすぃー♪ ハクさんピンチだね! 美影さんやっちゃってるし! (2015年5月23日 19時) (レス) id: 61b5a6cbc1 (このIDを非表示/違反報告)
季紀(プロフ) - 朱雀@忙しす先輩さん» テスト一週間前に修学旅行(TT) ね、あてちゃってるよね笑 (2015年5月23日 19時) (レス) id: 61b5a6cbc1 (このIDを非表示/違反報告)
季紀(プロフ) - 杜さん» そこまで言って頂けて嬉しい(笑) ハク落ちになったら美影を、美影落ちになったらハクの中編をそれぞれ書く気でいます。夢主は変わりますがね(^^; (2015年5月23日 19時) (レス) id: 61b5a6cbc1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:kiki | 作成日時:2015年4月8日 18時