君の手を離したら【千と千尋の神隠し】

残酷絵 ページ29

血のように赤い口紅を塗った、静(ジン)という女がいた。彼女も師匠の浮気に気付き、火が出るような勢いで憤った。命の危険を感じた師匠は必死に彼女を宥めていた。
と、彼女はふとハクに目を留め、浮気を許す代わりに彼を数週間貸して欲しい、と言った。どうにか彼女の怒りを鎮めたいと考えていた師匠は二つ返事でそれを了承した。

かくして、ハクは静の家へ居候することになった。彼女は綺麗で優しく見えたし、彼も師匠と離れられて良かった、くらいにしか思っていなかった。
だが、静の家に住み込んで3日目くらい経った頃だろうか。彼女は、いきなりハクを縄で縛り上げた。何かの遊びかと軽く構えていたハクを、彼女はよく研ぎ澄まされた刀でで容赦なく斬り付けた。

それからは地獄のような日々が続いた。日に日にハクの身体には赤黒い傷痕が増えて行き、裸にされて出血多量で意識を失うまで全身を傷つけられ続けた。


後から知った話だが、静は、当時中国で流行していた「残酷絵」という画法の名の知れた描き手であった。画法は極めて残酷であり、多くは血液が鮮やかに描かれ、また画材に本物の血液が使用されていた。描き手達は安い女郎や農家の娘を買ってきては、被写体として利用していた。
だが、人間は当然傷痕が残る上にすぐに衰弱してしまう為、静は幼いながらも人よりも死にづらい神としての性質を持つハクに目を付けた。
師匠も知らなかった静の一面だった。
そして、あろうことか彼の汚れなき肉体までを欲したのだ。

ハクは師匠の元で学んだ力を使い女を殺すこともできた。だが、彼はできなかったのである。愛すべき存在である人間の命を奪うことは当時幼かった彼には考えられなかったのだ。

1カ月も経った頃だろうか。流石に何かがおかしいと訝しんだ師匠が様子を見にやって来た。そして、息をするのもやっとな程までに痛めつけられたハクの姿を見て驚愕し、これまで怒り狂った。のらりくらりと生きている穏やかな師匠しか見たことのなかったハクは、初めて見るその姿に大変驚いたという。


「……まぁ、数年後に病死した静は師匠に地獄に落とされたんだけどね。今思っても、よく私は女が嫌にならなかったと思うよ」


そう言ってハクは何事もなかったかのように微笑んだ。私は掛ける言葉もなく、ただ瞳を見開いて彼を見つめた。
話の内容があまりにも強烈過ぎて、現在のハクの姿と重ねることが出来なかった。

*中国で残酷絵が流行ったというのはキキのでっち上げです

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★ハクちゃまの秘密★

おかっぱと言われると腹が立つ。

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