君は君 ページ25
『ハクの赤ちゃんが出来たかもしれないの!』
ハクを引き留めようとして咄嗟に叫んでしまったは良いが、反響する自分の声を聞くと途端に恥ずかしさが襲ってくる。ハクの姿は既に花の香りを残して茂みの向こうに消えていたし、必死な姿を晒しておいて惨めなだけだった。
ハクはもう、私のことはどうでも良いのかもしれない。
空の青さが空虚に見えた。
「……帰るか」
足先をくるりと反転させた時、不意にまた葉が擦れる音が響いてきた。もしかして、と小さな希望が胸の中で踊り出す。
「待て、帰るな」
茂みの向こうから2つの翡翠色の瞳が覗いた。彼は息を切らして再び私の前へ現れた。気が急いた様子で私へと歩み寄って来る。
「先程の話は本当か!?」
細長い指先に強い力で両肩を掴まれた。まるで自身が光を放っているかのような翡翠の瞳は、かつての彼とあまりにも変わることがなくて私は死んでしまいたくなった。
今すぐここから逃げ出したいという気持ちを押さえて、私は油の切れたぜんまい仕掛けの人形のように頷いた。
「そなたの腹に、私の赤子(ややこ)がいるとな?」
「……そ、そう」
余りにも真剣な表情に、まだ分からないけれどと戸惑いながら答える。ハクはじっと返事を聞いてから、私の肩を掴んでいた片方の手をそっと離した。そして、静かに私の頬へと伸ばす。私は叩かれるかもしれないと思って彼から目を逸らした。
だが、ひんやりと冷えた掌が私の頬を包んだ。彼を見ると、怒っているのか悲しんでいるのか、はたまた喜んでいるのかよく分からない色々な感情の入り混じった表情をしていた。
……そうだ、ハクは自身の怒りに任せて私を引っぱたくような人ではなかった。
「……何故もっと早く言わなかった」
緩い曲線を描いた色の薄い唇が開いた。私は少し怯えながら彼の目を見つめた。
「い、言ったってどうにもならないと思ったから」
「……阿呆」
溜息を吐く音が聞こえ、手が静かに何度も頬をなぞった。口調とは裏腹に、彼は初めて微笑みを浮かべていた。その微笑はやさしく美しく、私は初めて彼と出逢った頃の感情を思い出した。
「……怒らないの?」
「私の……いや、私達の子供だぞ。怒る訳がないだろう」
この所遠くから見るハクはいつも怒っているような顔をしていた。だから、穏やかに笑う表情を見て心からほっとした。
ハクは、ハクだ。その事実自体はどう足掻いたって変わり様がない。
それが分かって良かった。
★ハクちゃまの秘密★
おかっぱと言われると腹が立つ。
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モッケ - 本当にごめんなさい、許してください (2015年6月27日 13時) (レス) id: 7cabc5d692 (このIDを非表示/違反報告)
星宙(プロフ) - 季紀さん» 年がら年中からかわれてたら嫌になるもん! おかすぃくないよー♪ やっちゃった…美影さん犯罪に手を出してしまった…←笑笑 (2015年5月23日 20時) (レス) id: d32e317eb5 (このIDを非表示/違反報告)
季紀(プロフ) - 星宙さん» からかいづらいと言われて喜ぶ人も私は初めて見た♪ おかすぃー♪ ハクさんピンチだね! 美影さんやっちゃってるし! (2015年5月23日 19時) (レス) id: 61b5a6cbc1 (このIDを非表示/違反報告)
季紀(プロフ) - 朱雀@忙しす先輩さん» テスト一週間前に修学旅行(TT) ね、あてちゃってるよね笑 (2015年5月23日 19時) (レス) id: 61b5a6cbc1 (このIDを非表示/違反報告)
季紀(プロフ) - 杜さん» そこまで言って頂けて嬉しい(笑) ハク落ちになったら美影を、美影落ちになったらハクの中編をそれぞれ書く気でいます。夢主は変わりますがね(^^; (2015年5月23日 19時) (レス) id: 61b5a6cbc1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:kiki | 作成日時:2015年4月8日 18時