兎の敵 ページ4
｢あ、あなたは･･･白石さん?!｣
Aは咄嗟に、口元の『ホクロちゃん』を覆い隠すように首巻きをずり上げながら、目の前の坊主男──網走監獄での集団脱獄事件直前まで、看守であったAと、終始和気あいあいと接してくれた陽気な囚人───白石に問うた。
｢あ、ちゃんと覚えてくれてたんだな。やっぱり、俺みたいな男前は忘れられないって感じ？｣
｢ま、まぁ･･･｣
｢あはは、やっぱそうだよな！｣
白石は、Aが困ったような顔をしているのを、大して気にもせずに大声で笑った。
(ど、どうしてこんなところに白石さんが?!確かに白石さんたちは、網走監獄に向かっているとは鶴見中尉殿から聞いてたけど･･･偶然にも程があるよ!!)
Aは、金塊をめぐり敵対する集団のひとりである白石に遭遇し、会ってそうそうに、この場を一刻も早く立ち去りたい気持ちになった。今すぐ、宇佐美らに会って安心したい気持ちになった。
無理もない。下手すれば、既にAが網走監獄の看守を辞め、今は鶴見率いる第7師団の仲間になったのだと気づかれる可能性が僅かでもあるのだから。そしたらAは、間違いなく彼等に金塊について尋問され、下手すれば殺されるかもしれないのだから。
｢あれ？Aちゃんはなんでこんなとこにいるの？今日の仕事は休み？｣
｢え、まぁ･･･｣
｢───連れはいなさそうだな。ってことは、Aちゃんひとりでお出かけ？｣
｢ま、まあ･･･そんな感じかな。この町の甘味処、おいしいところがたくさんあるから･･･ひとりでゆっくり甘味処巡りしたくて･･･｣
Aは、白石に敵だと悟られないように、咄嗟にありもしない嘘をついた。
｢ふーん。でもさぁ、なんで看守服着ているの？普通、休みの日まで仕事服着る？しかも、外──それもかなり遠出して出かけるときに？ここは、網走からまあまあ遠いだろ？人目とか気にならないの？｣
｢あ、そ、それは･･･｣
｢男ならまだしも、Aちゃんは列記とした女なんだぜ？普通、女ってのは、いついかなる時も常にオシャレをするもんじゃないの？｣
｢あ、え、えと、それはそ、その･･･｣
(そうだ、白石さんは傍から見たら何も考えていないように見えるけど、実は結構感が鋭いんだった！今、私は第7師団の軍服を着てないからって安心してた。だから、余計に油断していた･･･！ど、どうしよう?!)
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作者名：もふもふ | 作成日時：2019年1月5日 17時
