山猫とぶらり脱走の旅(でも偶に帰省) (ページ8)

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今度は試したくなったページ8

これは、俺がAに、次第に他の兵士たちに酷く甘えるようになった･･･というよりは、今まで素直になれなかった気持ちを認め、それを純粋に兵士たちに伝えたっていう方が正しいのかも知れない。

とにかく今から語る話は、俺が大きく変わる要因になったきっかけである。俺が、初めて心から『祝福』されたと感じた瞬間の話である。

それは、俺が父上を鶴見中尉にいわれるがままに殺害はしたものの、これから本格的に中央に対するクーデター計画に参加するかどうか、まだ考えあぐねていた、ある日の人気のない兵舎裏での話だ。

｢尾形上等兵･･･いや、尾形百之助さん！私、一目見たときからあなたに惚れました！す、好きです！いや、愛しています！よ、よろしければ、お付き合いさせてください！｣

そういってAは、俺に向かって地面に着くんじゃないのかってくらい勢い良く頭を下げた。率直な、いっそ清々しい程までのストレートな愛の告白をしてきた。

しかし、俺はそれをただ、能面のような顔で、半ば見下すように見下ろしていた。場違いな程に。俺とAとの間には、とてつもない、凍てついた氷河と煮えたぎるマグマってくらいの激しい温度差があった。

普通なら、自分を好いていると告白をしてくる者がいたならば、少なからず喜ぶだろう。例えそれが、自分が好いている者じゃない、告白されるまで全く興味のなかった者からだとしても、だ。

だが、俺は違った。なら、俺はAが嫌いなのか？いや、それも違う。俺は別に、Aのことなんて嫌いじゃない。寧ろ、好感を抱いている。一緒にいると、何故かとても癒された気分になるからだ。

じゃあ、何で俺はAを冷え切った氷のような目で、死人のような無表情で見ているのか？それは─────────

「俺、血の繋がりのある奴を3人も殺したんだ。」

「え･･･？」

Aは、先の告白とは全く関係ない話に目を丸くした。それは、内容も衝撃的だったからに違いない。だが、そんなことなどお構い無しに俺は話を進めた。だって、試したくなったから─────────俺の全ての歪んだ所業を聞き、まだ俺に好いた惚れただ、愛しているなどというのかを。それでも、神と同じくらい存在があやふやな言葉を目の前の女は囁くのかを。