兎のお誘い ページ10
｢本当は、剣を実際に扱う仕事に就きたかったな。｣
｢剣？｣
｢うん。私の家は武器屋で主に剣を扱っていて。もちろん、真剣よ。小さいころからよく、隠れて刀を振り回してたな･･･だから、そこら辺の男子よりは真剣の扱いには自信あるわ。ちゃんと、近所の剣術道場の師範のお墨付きもあるし。｣
｢へぇ。Aさんの剣術、どのようなものか見てみたいです。じゃあ、土方歳三に憧れたのもそれですか？｣
｢うん！土方歳三さんは凄い剣術使いだから！でも私、女だからそんな剣を扱う仕事なんてなくて･･･武器屋すら、女だからダメ。弟に継がせるって親が･･･まぁ、当たり前だけど。だから、憧れの土方歳三さんがいると聞いて、もう、ここにしようって。一応、護身用に刀の所持は許されてるし。｣
Aはそういって努めて明るく話をした。
｢じゃあ、兵士になればいいじゃないですか？｣
｢え？でも、私女だから･･･｣
そこで宇佐美は、休憩室には他にだれもいないのに、小さな声で呟く。
｢僕、いいところ知っていますよ。あそこならきっとAさんのこと受けて入れてくれますよ。｣
｢え、でも、そんな･･･｣
突然の誘いに戸惑うA。無理もない。もう、剣を扱う仕事は出来ないと諦めていたのだから。
｢なんなら、今すぐにでも紹介しましょうか？｣
僕と一緒に第7師団へ、と声に出さずに宇佐美は付け足す。
｢いや、そういってくれるのは嬉しいけど遠慮するね･･･｣
｢どうしてですか？｣
｢だってここには、門倉部長がいるから。｣
｢え？｣
宇佐美はその｢門倉｣という単語に思わず目を丸くした。
｢ど、どうして門倉部長が？｣
｢門倉部長は右も左も分からない私に、仕事を1から優しく教えてくれて、土方歳三さんがいなくなってショックを受けたときも優しく声をかけてくれたの。大丈夫、落ち着くまでゆっくりしてなさいって。それがとても嬉しくて、もっとここにいたいって･･･それに･･･｣
｢それに？｣
｢門倉部長はあの通り、犬童典獄からキツイ当たりを受けているから。だから、私がいることで少しでも門倉部長の心が和やかになればって。私といると、穏やかになれるっていってくれたから。何より、このまま門倉部長を置き去りにしていったら、門倉部長の今後の健康が心配で･･･主に精神的な面で･･･って、私門倉部長の奥さんみたい！まぁ、娘でもこれくらい心配するよね。本当の娘じゃないけど！あはは･･･｣
｢･･････｣
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作者名：もふもふ | 作成日時：2018年12月4日 12時
