兎のため息 ページ13
｢はぁ･･･｣
｢どうした？新人。｣
｢いえ、何でもありません･･･｣
宇佐美は、先輩看守に声を落として呟く。時刻は夕方。ひと通り、門倉から仕事を教わった宇佐美は、他の先輩看守数人と共に、自ら志願して書類保管庫の整理をしていた。
(ここなら、何かあると思ったんだけど･･･そう、簡単にはいかないよね･･･門倉部長の経歴とか載ってる資料とかあればなぁ･･･)
宇佐美はAの慕っている門倉の本性を暴くために、自ら｢先輩達忙しそうですね。私はもう上がりですが、よろしければ手伝いましょうか？｣と申し出、彼に関する情報を探っていたのだった。しかし、看守が自由に出入り出来る場所に、厳重されるべき個人情報の資料があるわけがなかった。ちょっとは期待していた宇佐美は、やっぱりか･･･と冒頭のようにため息をついたのだった。
(鶴見中尉殿によれば、犬童は下戸だから酒に酔わせて吐かせられないし･･･でも、犬童の執務室には到底忍び込めないし･･･)
犬童はこの網走監獄から意地でも動かない。それくらい、この監獄に執着しているため、宇佐美の勤務時間内に執務室が留守になることはまずなかった。少し空ける時も、きちんと戸締りをするので侵入は不可能だった。
(あそこ以外に門倉部長の情報を手に入れられるとこはないだろうな･･･)
｢あ、そうえば新人。おまえもモグリか？｣
｢え･･･？｣
宇佐美は、その言葉に思わず内心だけで動揺する。まさか、潜入がバレたのかと思いながら。
｢その様子だと、真っ当なやり方で入った口か。｣
｢いや、それが普通だって！｣
｢･･･どういうことですか？｣
潜入がバレていないことにほっとしつつ、先輩看守に問う。
｢何。俺たちは裏金で雇われたのさ。｣
｢実は、この監獄で集団での脱獄事件があってよ。その時に、看守総入れ替えしたんだ。｣
｢脱獄事件に関与した奴を全員別な役職にしてよ。｣
｢んで、全員入れ替えたから、人手不足で俺たち雇われたってわけ。｣
｢そ、そんな大事件があったんですね･･･｣
宇佐美は今、初めて知ったような風にいう。そこで、ある疑問が浮かぶ。
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作者名：もふもふ | 作成日時：2018年12月4日 12時
