兎の狂気 ページ11
｢･･････｣
宇佐美はAが笑いながら話を終えた後もしばらく黙っていた。そこからは、彼の本来の姿である、おぞましい狂気が嫉妬と混じりあい、じわじわとAを侵食していった。底知れない静かな闇が宇佐美の周囲を覆った。まるで怨念の塊である。
｢う、宇佐美さん･･･？｣
Aはその狂気的な殺気に思わず彼の名前を呼ぶ。
｢つまり･･･｣
宇佐美は聞き取れないくらい小さな声で呟く。
｢え、なに？｣
｢門倉部長がそうでなければAさんはここにいる意味はなくなるってことですね･･････｣
｢ど、どういうこと？そうでなければって･･･｣
｢おーい。新人、そろそろ本格的な仕事を教えるからこっち来い！Aもいつもの持ち場に着け。｣
そこで、犬童から急ぎで頼まれた仕事を終えた、たった今話題に出てた門倉が休憩室にやってきた。
｢はい、分かりました門倉部長！｣
宇佐美は先程までの狂気を微塵も感じさせずに、いわれてすぐに門倉の後に着いて行った。だからAは、宇佐美のいった意味を問い詰めることが出来なかった。
僕は今、門倉部長に本格的な仕事を教わるため、監獄内を歩いていた。あののっぺらぼうのいる独房のそばまでくると、僕は手前の冊子を開けた。顔の筋肉がむき出しののっぺらぼうと目が合った。その瞬間、すぐに僕は冊子を閉めた。鶴見中尉殿の命令とはいえ、こののっぺらぼうの容貌は僕でさえ恐ろしかった。おぞましくて、早く視界から消えて欲しくてつい、勢い良く閉めてしまった。まあ、今いる独房の位置は把握出来たので良しとしよう。
｢新入り。｣
そういわれた僕は、先を歩いていた門倉部長に追いつくように小走りした。
｢あの男が気になるか？｣
｢そりゃーまぁ。あんな恐ろしい顔の男は中々いませんからね。｣
これは、僕の本心だ。嘘ではない。
｢先輩として忠告しておく。ここに来て一番に学ぶことは、のっぺらぼうに関わるな、だ。｣
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作者名：もふもふ | 作成日時：2018年12月4日 12時
