兎の泣き真似 ページ8
「さて、僕はちゃんといいましたので、次はAさんの番ですよ!」
「え、いやでも・・・」
「早く聞きたいな!」
Aは、さっきの宇佐美がいった理由が本当だとは思えなかった。無理もない。可愛い看守がいるからだなんて理由で、この過酷な仕事を選んぶ人間なんているはずがないのだから。
宇佐美は他にも理由があるといっていたが、どうやら教える気はないらしい。ならば、自分も本当のことはいわずに適当なことをいおうとAは思った。
「あ、今嘘つこうとしてますね。」
「はい?!」
「その感じじゃ図星ですね。ダメですよ、本当のことをいわなくては。」
「だって、宇佐美さんのいったことが本当かも分からないし・・・」
そう、Aがまごまごしていると宇佐美が机に少し乗り出して顔に影を作りながらいった。
「・・・Aさんは僕のこと信じてくれないんですか?」
「───ッ!」
Aは、悲しそうにいう宇佐美に何も言えなかった。
「わ、わかったよ。信じるから、そんな顔しないで。」
「Aさんならそういってくれると思いました♪」
先程までと一変して、宇佐美はルンルンと効果音がつきそうなくらいパッと顔が明るくなった。
(な、なんか完全に宇佐美さんのペースに乗せられてる気が・・・)
しかし、これ以上話をはぐらかす術はAにはなかったので、渋々この網走監獄の看守になった理由を話し始めた。
「実は、ついこの間までここに、新撰組の鬼の副長といわれた土方歳三さんがいたんですよ。」
「あの土方歳三が?!てっきり死んだのかと思ったのですが、生きていたんですね・・・」
宇佐美の所属する鶴見率いる第7師団27連隊は『金塊』を追っているため、刺青の囚人に詳しい。もちろん、囚人の筆頭である土方歳三もまた然り。しかし、あくまでも何も知らない新人看守として潜入しているため、宇佐美はAに知らないフリをした。
「そうなんですよ。実は私、土方歳三さんに憧れていて、一度でも良いから会いたいなって思っていたんです。でも、とうの昔に死んでしまったと世間では伝えられていたので、諦めてました。でも、ある時ここに幽閉されてることを知り、それから、ここの看守になるように頑張りました!」
「へぇ・・・」
(爺さんとはいえ、男のためにねぇ・・・嫉妬しちゃうね・・・)
宇佐美は無意識に目を細め、声を低くして短く発した。
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作者名:もふもふ | 作成日時:2018年12月4日 12時