兎の心配 ページ32
「───そして、私がこの者らを率いる鶴見だ。君は、網走監獄の看守だった川田Aさんだね?そこの宇佐美上等兵から、既に電話で話は聞いている。」
「は、はい・・・!」
Aは、宇佐美と共に網走監獄から半ば脱走した。そして、無事に目的地である、宇佐美の上官とその部下が数名がいるという、根室にある建物に着いたのだった。
宇佐美の上官である、第7師団27連隊の中尉である鶴見とその部下は、普段は小樽を根城にしている。しかし、金塊の手掛かりとなるのっぺら坊を、網走監獄から奪うため、ここ根室まで足を運んだのだという。
近々、本格的に第7師団(といっても、本部にクーデターを起こそうとしてる兵士たちの集まりだが)は網走監獄に乗り込むと、Aは宇佐美から道中聞いていた。だから、宇佐美が事前に網走監獄で潜入捜査をしていたのだと、改めてAは納得した。
Aは今、その根室の建物で鶴見と話していたのだった。まだ、鶴見から、その場にいる部下と自身について、軽く自己紹介されただけの段階であった。
(なんか、変わった人たちがいっぱい・・・二階堂さんは頭に変わった被り物つけているし、鯉登少尉は変な叫び声を上げているし、月島軍曹はずっと真顔だし、鶴見中尉は本当に大丈夫なのかってくらい、頭を怪我されているし・・・汗)
Aは、あまりにも異様な集団に内心苦笑いしつつ、ひとりひとりにツッコんだ。
「Aさん、大丈夫?」
「え、うん、大丈夫・・・」
隣にいた宇佐美にそういわれ、何とか平静を装うAだった。
「ところで、鶴見中尉。ひとつお聞きしたいのですが・・・」
「何だね?」
「私、本当にあなた方のお仲間になってもよろしいのでしょうか?」
Aは、鶴見と顔を合わせた瞬間、開口一番に「待っていたぞ。君を我々の同胞として、快く迎えいれよう」といわれ、酷く困惑した。
Aは曲がりなりにも、彼らと敵対する網走監獄の看守であった。しかも、軍には普通入れない女である。おまけに彼らには、Aがどれくらい戦力になるか分からないはずだ。だから、そんなあやふやな存在を簡単に引き入れた鶴見に、Aは困惑したのだった。
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作者名:もふもふ | 作成日時:2018年12月4日 12時