狸の本音 ページ29
｢いわれた通りあの新入りは豚に食わせました。意外と抵抗激しく新入り、囚人らそれぞれ瀕死の所を私が間に入ってきっちりカタをつけました。新入りは行方不明、囚人二人は喧嘩の末の同士討ちで処理しました。｣
｢門倉部長。ここにきて７年だったか。｣
｢はい。｣
｢私はずっと貴様を金玉の伸びきった腑抜け狸だと思っていた。役立たずを辞書で調べたら門倉が出てくると。だが･･･今日はほんの少し貴様に対する評価を改めよう。｣
｢そりゃ、どうも。記念日にします！｣
｢ところで、川田はどうした？朝に敷地内を警備していたそうだが、途中からいなくなったそうじゃないか。｣
｢は！それは今朝、彼女宛に電報が届きまして･･･なんでも、彼女の父親が急病で倒れたそうです。なので、急いで故郷に帰しました。実家の武器屋の跡継ぎなどで、揉める可能性がありますからね。彼女の弟は、まだ、幼子ということですし。勝手な独断お許しください。｣
｢いや、ならいいんだ。後は先の件も含めてこちらで処理する。門倉、もう下がって良い。｣
｢は！では、失礼致しました。｣
そういって、犬童への報告を終えた門倉は、犬童の執務室から出て扉を閉める。そして、はぁ･･･とその扉に背を預けながらため息をついた。
(Aは、きっと、あの新人と行っちまったんだろな･･)
門倉は上を見上げながら、どことなくそう確信した。
(俺が不甲斐ないばかりに･･･もう少しで、土方さんたちがこの網走監獄に来る。のっぺら坊を奪いに。そしたら、土方さんとAを一緒にさせようと思ったのな。看守なんてやめさせてよ。憧れの土方さんと旅を出来たら、これほどAにとって嬉しいことはないと思ったんだが･･･土方さんもAのことは、孫娘のように思っていたし。だが、その前にとんでもないやつがAをさらっちまった･･･)
門倉は、Aに対する後悔の念で胸がいっぱいになる。
｢本当に娘のように思っていたのにな･･･｣
門倉はぽつんと誰にともなく呟いた。しかし、それは監獄内に虚しく響くだけだった。
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作者名：もふもふ | 作成日時：2018年12月4日 12時
