兎の唐突 ページ21
「じゃあ、金塊のことは・・・」
「もちろん、知っていますよ。Aさんよりもずっとね。」
「だ、脱獄事件のことも・・・?」
「ええ。全部Aさんからいわれる前にね。そもそも、刺青の囚人の移送を手引きしたのは、僕達第7師団ですし?」
「そ、そんな・・・だから、門倉部長は宇佐美さんを殺そうと・・・宇佐美さんはのっぺら坊を狙う敵だから・・・!」
「ご名答です♪」
「でも、いくらスパイだからって門倉部長は囚人を使って殺す人じゃないわ!門倉部長にそんなこと出来ない・・・そんな極悪人じゃ・・・」
Aは宇佐美がスパイだとか、金塊を狙っているとか、本来、軍と監獄の人間は協力しあうべきとかそんなことはどうでもよかった。Aの知る門倉に化けの皮を剥がす余地などない、優しくて信頼出来る門倉がありのままの門倉・・・それさえ確信できれば良いのだった。
「本当にそう思いますか?」
「あ、あたりまえよ・・・!」
「土方歳三。」
「・・・え?」
唐突に出てきた、Aの憧れの新撰組鬼の副長と呼ばれた男の名前。それにAは思わず首を傾げる。
「土方さんが、な、なに・・・」
「おかしいと思いませんか?昨日先輩達に聞きましたよ。Aさんは集団脱獄事件の3日程前に、門倉部長にいわれて急遽休みを取るようにいわれたと。」
「それが、土方さんとなんの関係が・・・」
「そして、Aさんの休み明けには憧れの土方は脱獄していた・・・」
「・・・!!」
それは、Aがずっと門倉に対して疑問に思っていたことだった。なぜ、急に休みを・・・まさか、脱獄事件が起きることを分かってやったでは?という門倉に対する疑念だった。しかし、門倉はその後、Aのことを必死に慰めてくれた。ずっと、優しく声をかけてくれた。
「土方を脱獄させてしまったのは俺の責任だ。Aがあれほど土方に憧れ、そのためだけにここに来たのは分かっていたのに・・・」と、Aに深く懺悔しながら。そこまでいわれては、Aは門倉を許すしかなかった。
だからAは、その疑念を門倉の優しい慰めと心からの懺悔によりすっかり忘れていた。しかし、宇佐美にいわれ再びその疑念が胸中をザワめかせる。
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作者名:もふもふ | 作成日時:2018年12月4日 12時