山猫に一目惚れ (ページ32)

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大部屋ページ32

｢フン、二等卒のクセして、随分呑気なこった。｣

｢他の上官ならともかく、尾形一等卒にそういわれるのは悲しいです･･････｣

｢傷つきました･･･なぁ、浩平･･･｣

｢おう･･･せっかく、尾形一等卒にもお土産買ったのに･･･なぁ、洋平･･･｣

｢･････････｣

そういって、わざとらしく悲しそうな顔をする双子に、尾形はなんといえば良いか分からなかったため、黙るしかなかった。

時刻は晩。ここは、第7師団の兵舎の一角にある大部屋。

あれから、甘味処でしばらくAとゆっくり談笑していた洋平と浩平は、夕方に兵営に戻った。そして、鶴見に土産を渡しつつ、視察の報告をすれば、あっという間に晩になった。だから一度、自分らの過ごす大部屋に戻ったのであった。そして、そこにたったひとりでいた同室の尾形に開口一番、どこで何していたと問われた。それに返したところ、冒頭のような台詞をいわれたのである。

｢黙らないでくださいよ！｣

｢なんとかいってくださいよ！｣

｢───お前ら五月蝿い。静かにしろ。｣

｢｢え〜｣｣

尾形は、自分の複雑な生い立ちのため、軍から冷遇されていた。それは、尾形自身が一番理解していた。そんな中、この双子には妙に懐かれている。面倒だとは思いつつ、悪い気はしていない。だから、軽いからかいあいをするくらいには、尾形は双子に気を許していた。その気を許す要因は実は他にもあったりする。それは───

｢あ、そうえば甘味処で偶然、藤宮少尉にお会いしました。｣

｢袴姿可愛かったな。なあ洋平？｣

｢おう。見られなくて残念でしたね、尾形一等卒･･･｣

｢･･････｣

｢それから、藤宮少尉のご友人と共に、店でご一緒させてもらいましたよ。｣

｢たくさん藤宮少尉とお話できましたね〜｣

｢────ﾁｯ｣

｢おや、嫉妬ですか？尾形一等卒。｣

｢まぁ、それも仕方ないな。尾形一等卒は藤宮少尉が────好きですからね！｣

｢────それは、違う。｣

間を置きつつも、尾形はそれを否定した。しかし、本人が認めないだけで、あながち間違ってないのかもしれない。

そう、尾形が双子に気を許すもう一つの要因は────尾形がAに少なからず気があることを双子は知り、冗談いいつつも彼らなりに親身になってくれるからである。