夢 ページ18
『 もう、逃がさないぜ。』
彼はそういって、壁際に追い詰めた私の横に手をつく。私はドキドキで心臓が今すぐにも破裂しそうだ。そんな私を他所に彼は、空いていた右手で、どこからともなく、小銃を取り出す。そして、私の胸のほぼ真ん中──心臓にその銃口を当てる。私は、思わずひぃと小さく悲鳴をあげる。頭の片隅で、こ、これは壁銃ドンッ?!と、場違いなこと思いながら。
『 安心しろ。殺しはしない。 』
そういいながら彼は、私の右の耳元にその唇を触れるか触れないかまで寄せる。はぁ、と彼の吐息が耳にかかり、私は頭がクラクラした。そして、一段と脳が甘く痺れるような声で囁く。
『 この銃でお前の心を撃ち抜いて、俺しか考えられないようにしてやる────』
バアアァンッ──!！
｢わぁ───!!って、夢!?｣
そう叫んだAは、勢い良く布団から飛び起きる。そして、一拍置いてからAは、夢の内容の恥ずかしさで、顔が茹でダコのように真っ赤になった。
｢な、なによ、今の夢はッ！夢は、その人間の願望や希望を形にするって聞いたことあるけど、私あんなことをされたいと思ってなんか･･･いや、されたくないわけではないけど、むしろしてほしい･･･って汗 て、 てか、壁銃ドンって何よ！我ながら、呆れた命名の仕方･･･｣
これを、ネーミングセンスの欠けらも無いというのか、とAは思いながら、この部屋──自室の時計を見やる。すると、ハッと息を呑む。
｢もう、こんな時間!!遅刻したら罰として、鶴見少尉からもれなく、書類の山を寄越されることに!!もれなく、恐怖のお茶会付きで！｣
それだけは、絶対阻止しなければならない。Aは、急いで寝巻きである着物から、軍服に着替え、１階の茶の間まで猛ダッシュで階段を駆け下りた。そう、Aの部屋は、この──和風建築の藤宮の屋敷の2階にあるのである。
下っ端の兵士たちは、兵舎で日常生活を共にする。しかし、Aは少尉という立場なので、自宅通いが許されているのである。一部の下仕官と将校は、余程のことがない限り、近場に所有する自宅や別荘か、営内、またはその付近にある官舎から通うのだ。
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作者名：もふもふ | 作成日時：2018年11月20日 21時
