castle～かとう編～ (ページ5)

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展示会当日
急ぎの仕事で残業になってしまった。

「慌てなくていいよ。
先に入ってるから、着いたら連絡して。」

遅れてしまうお詫びの連絡をすると
加藤先生は優しく許してくれた。

「ありがとうございます！急ぎます！」

「ふっ。だから急がなくていいって。
じゃあ、後で。」

「はい。失礼致します。」

先生の笑い声、好きだなぁ。

今日は展示会だからとかこつけて、
デートの気分でオシャレをしてきた。

小説の参考のためだから仕事の内なんだけど、
かわいいと思われたくて、頑張った。

人妻のフリをしていながら何してるんだろ…

とは思うけど、折角頑張ったんだから
絶対に先生の所へ行きたい。

気合を入れ直して、残業に励んだ。

私の気迫につられたのか後輩も急いでくれて、
思ったよりは早く終える事ができた。

「お疲れ様でした！お腹空きましたね！ご飯、」

「お疲れ様！先生待たせてるんだ。先に出るね。
じゃあ！お疲れ様でした！」

「あぁ、はい。お疲れ様でしたー！

…やっぱ先輩が好きになっちゃったら、
指輪させた意味ねえよなぁ。。」

帰る背中に向かってボソリと吐かれた嘆きは
閉まるドアで遮られた。

会社からタクシーに飛び乗ると
思ったより早く会場へ着けたので
ルンルンで電話をかけようとしたら、
入口のガラス扉の向こう側に先生が見えた。

可愛らしい女性と二人でニコニコ楽しそうに、
服をあてがったりしている…

そうだった…。先生は女好きだ。

美貌と財力と豊富な知識があって
モテない訳もない。

私の身体は踵を返し、会場を背に歩く。

仕事の一環で誘われた展示会だったけど、
先生の邪魔をする訳には行かない。

というのはただの言い訳。

ビルを出て電話をかけた。

「お疲れ。着いた？」

着かない方が邪魔じゃないだろうに、
まるで待ってたような言い方して、ズルい。

いや、待たせていたのは間違いじゃないか。

「もしもし、お疲れ様です。あの、本当にすみません。終わる目処が立たなくて、行けそうもありません。」

先生につく２つ目の嘘。

「え？そんなに？」

「本当に申し訳ございません…」

「ああ、うん、仕方ないよ。頑張って…」

「ありがとうございます。では…失礼致します。」

浮かれ気分から一気に現実に連れ戻され、
仕事の疲れがドッと来た。

お腹も減っているし、もう頭が回らない。

すぐ近くにご飯屋さんがあったよな…

ぼんやりとした記憶を頼りに信号を渡った。