90 _basement. ページ7
_ Your side.
_
「本当に、大丈夫なのかい...？」
「ご心配には及びません
少し、物音がするかもしれませんが...」
満月がやってくる
リーマスは昼過ぎから地下室に籠もったままだ
お父さんが心配するのも無理はない
こんな状況じゃ脱狼薬なんて用意できないし、急遽ここに来ることになったから睡眠薬も持ってない
変身後の狼人間相手にそこいらの睡眠薬なんて効きやしないのだから、今回は文字通り力尽くだ
水とタオルと杖とチョコレート
少し肌寒いぐらいの動きやすい格好で地下室へと続く通路を降りる
地上より湿度が高くて嫌な感じだ
「気分はどうだ？」
「....よくない」
何某かの布に包まって壁際に蹲った彼に声をかける
ゆっくり近づいて彼の前の床に腰を下ろした
「チョコレート食べるだろ？」
「....やっぱり、君は外にいた方がいい」
「なにを今更」
危険なんてとっくの昔に承知の上だ
ここで1人にしてしまったら、また自分を夜通し傷だらけにするに決まっている
もうすぐ日没だ
震える肩を抱き寄せてその時を待った
「大丈夫、ここにいるから...」
_
_
「ッダメだ、離れて...！」
腕の中でミシミシと音を立てながら彼の身体が変形していくのがわかる
縮こまっていたはずの体が骨格ごと肥大していき、あっという間に別の生き物へと姿を変えた
少し距離をとって様子を見ると、遠吠えをひとつあげて直ぐにこちらを捉えた
貧相な電球ひとつで照らされた薄暗い地下室で、ギラギラとしたアンバーの瞳が浮かび上がる
「君と遊ぶのは数ヶ月ぶりだな」
あのときとは違って、今回は周りを気にする必要もない。思う存分、相手をしてやろうではないか
折れるといけないから杖は部屋の外に置いてある
首周りの関節を鳴らして準備運動を済ませると、部屋の広さなど関係ないようなスピードで襲いかかってきた
思わず避けてしまったが、後ろの壁にぶつかって痣でも作っているんじゃないだろうか
特に気にした様子もなく、すぐにこちらを振り返って襲い掛かってくる
「っ元気だねぇ、まったく...」
ここにいる間に怠けていた分、これぐらいはいい運動だろう
まるで体力の底が見えない狼を相手に、狭い地下室の中で鬼ごっこを続けた
時々、壁に体をぶつけたり転んだりしながら、本能だけで動く獣を相手に取っ組み合う
彼奴らに比べれば、狼なんて可愛いじゃないか
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作者名：yamanarashi | 作成日時：2021年1月10日 19時
