幸せの代償【WT】 (ページ5)

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「..ごめん、スマイル...」
「どういう事だよ!!」

　シャークんがきんときの胸ぐらを掴む。きんときは掠れた声でそう呟くと、顔を背けて唇を噛んだ。僕は何も言えずに、ただ無言の空気を押し流すように慌ててシャークんを止めに駆け寄る。彼はしばらく納得できない様子できんときを睨むと、チッと舌打ちを鳴らして手を離した。

「...嘘じゃない」

　目を伏せて白状するきんときが嘘をついているようには到底見えなかった。近くの椅子に乱暴に腰をかけたシャークんは、悔しそうな顔で頭を抱える。

「なんで...」
「俺だって知りたいよ...」

　あの夜。スマイルは一人でここに来て、何かを決心したような表情でどこかへ行ってしまった。引き留める事なんて出来なかった。伸ばした手と開きかけた口はいつも引っ込んでしまう。内に秘める思いだけ、届ける事なんて知らずに心の中に蓄積されていく。俺はいつもそうだ。

　あの日。スマイルは悲しそうな顔をしていた。

- - -

「スマイル...？」

　食堂の片付けも終わり、家に帰って寝る支度でもと照明の明かりに手をかけた時、丁度扉が開いた。入ってきたのは、スマイル。無表情な瞳で、なんだか悲しそうな影を宿して俺の所にやって来た。

「きんとき、お前には言っといた方がいいかと思って」
「...何を？」

　彼から俺に用があるなんて珍しい。この時俺は気づくべきだったのだ。そんな勇気、自分には持ち合わせていない事も知ってたけど。

「今夜、俺はこの街を出て行く」

　決意、スマイルの目には何か決断したような、いつもとは違う光が見えた。砂漠化とした街の外を、スマイルは知らないのだろうか？街から出たら最後、生きて帰ってきた人はいないというのに。
　この時だって、俺はまだ半分信じていなかったのだ。冗談だと思った、スマイルなのに。彼が冗談を言いに夜、俺のとこに来るだろうか？
　咄嗟になんで？と心配そうに声をかける。

「......知りたいんだ、外の世界」

　それに、と焦る俺を留まらせるようにスマイルは続ける。

「俺はもう、限界なんだ...」

　ぽつりと溢れた言葉の意味が、俺にはよく分からない。
　気づいたらスマイルは目の前から消えていた。頬を伝う雫は行く当てもなく床に吸い込まれていった。行かないで、スマイル。そんな言葉も伝う前に、虚しく俺の中で跳ね返っては消えていった。友達がいなくなるときも、俺は変われないまま。

「行かないでよ、スマイルっ......」

　弱虫なんだ、俺は。