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それから二ヶ月ほど経った。季節は真夏、暑さだけが街を巡回していて、時折吹く風が火照った体を少しだけ涼しくした。
「シャークん、スマイル知らない？」
「...スマイル？」
いつも着ている長袖の上着を腰に巻き付け、くすんだ深緑のTシャツと普段はあまり見せない白い肌＿彼、ぶるっくはそう訪ねてきた。青々とした若草が揺れる草原で寝転んでいた俺は、不思議そうに首を傾げる。アイツのいる所とすれば街の奥の小さな図書館、この季節であれば避暑地の噴水の影にでもいるだろう。「適当に探せばいるだろ」とまさに適当な返事を返せば、それがさ、と彼も続ける。
「図書館もどこもいないんだよ、珍しくない？家行っても留守だし」
「へー、アイツが」
「それでね、心当たりある場所見て回ったけどいないの」
なんかおかしくない？口にする言葉は二人とも同じだった。外出を嫌うスマイル、知識以外に興味が無い奴が街をふらつくなどあるだろうか。
しばらく街を徘徊しても見つからず、色々悩んだ結果きんときに聞いてみる決断に至り、二人は街広場から少し奥にある食堂へと足を向けた。
「きんとき〜」
彼は子供に配布する大量の昼食作りを、街のお母さん達によく頼まれてここで作っている。
「スマイル知らない？ずっと探してんのにどこにもいないんだ」
「......そうなんだ」
「なんか知らない？」
ぶるっくの問いかけに、きんときは一瞬黙った。俺にはその沈黙がやけに違和感として染みついた。「知らないよ」そう笑う彼の目はどこか泳いでいる。誤魔化すように食器洗剤とスポンジを手に取ると、「図書館にいるんじゃない？」と笑いながら食器を洗い始める彼に俺は口を開いた。
「場所、知ってんのか」
「......どうしたのシャケ、知らな..」
「ホントの事言えよ」
「...」
きんときが押しに弱いのは昔からよく知っていた。素直な性格で嘘がつけない。秘密事があると隠し事ができない。今の彼はまさにそうだ。胸に秘めた違和感を必死に隠そうとして、自分の中で葛藤して戸惑って、俺に問い詰められたらほら、こんなざま。
「スマイルは...」
しばらく口を結んでいたきんときが、弱々しく呟いた。途切れる言葉を催促する事無く、沈黙に時を任せる。
「スマイルは、この街から出て行った」
その答えは耳を通り抜けていくと、蛇口から流れ出る水と共に排水溝へ吸い込まれていった。
耳を疑う。
「もうこの街に、スマイルはいない」
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