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「なんでAが泣くん」
『ごめ、泣くの違うのはわかってるんやけど、』
「泣きたいのは俺の方やねんけど」
『すぐ、泣き止むから、ごめん、』
呆れたような怒りを含んだ顔でこちらを見つめる大きな瞳が怖くて、余計に涙は止まらなくなる。やっと目を合わせてくれて嬉しいのに、それよりも恐怖の方が勝ってしまう。
だって、出会ってから今までこんなに本気で怒ってる顔、見たことないねんもん。こんな誠也くん、知らん。
『あかん、とまらへん、』
「飲みすぎちゃうん？お前酔うとすぐ情緒不安定なるやん」
『……そんなことないもん』
「は？何言うてん。そんなことあるやろ」
『せいやくんこわい、』
「なんなん？俺が悪いん？」
『……ちがう。あたしが悪い』
「せやんな？外であんま飲みすぎんなって言ったやんな？遅くなるなら連絡しろって言ったよな？」
『、言った、』
「でも守らへんかったお前が悪いやんな？」
『ごめんなさい。でもほんまに久しぶりやったから、』
「もうええて、それ。言い訳もいらん」
『え、待って、どこ行くん、』
ソファから立ち上がったと思ったら、財布とスマホを持って玄関に向かう誠也くん。慌てて腕を引いて必死で止めるけど、すぐに振りほどかれてしまった。
「お互い冷静じゃないし、このままじゃ話にならんやろ。俺今回はホテル泊まるわ」
『今から？もう終電ないよ？それにホテル取ってないやろ？せめて朝になってからにしよ？ね？』
「このまんまここおっても気まずいだけやん。適当にタクシー捕まえるし、今日は丈のとこ泊めてもらう」
『ねえ、ほんまに？ほんまに出ていくん？』
「ちゃんと戸締りしときや」
扉を開く間際、そう言って何度も見てきた優しい顔で頭を撫でて去っていた。なんでなん。なんで最後にそうやって優しくするん。怒ったままでいてよ。怖い顔したままでいてよ。優しくならんでよ。……どこも行かんといてよ。隣におってよ。
面と向かって甘えの言葉を言われへん自分が心底嫌になる。おらんくなってから言ったって遅いのに。
閉まる扉を見つめたまま、その場で泣き崩れた。冗談やでって、怒ってないでって帰ってきてくれることを願って。そしたら、あたしの方こそ約束破って心配掛けてごめん、素直じゃなくてごめんってちゃんと謝るのに。
リビングの床には、この状況とおんなじ、ドロドロに溶けきったアイスが、コンビニの袋に入ったまま転がっていた。
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作者名：てと | 作成日時：2022年9月3日 5時
