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そう言った大ちゃんの顔は、眉毛も目も垂れ下がっててまさにわんこ。おまけにあざとく首もこてんと傾けている。昔からあたしがその顔に弱いこと知っててやってくる大ちゃんはずるいし、許してしまうあたしはほんまにチョロい。
『まあ、お仕事やし、ドラマの延長やと思えば、』
そう言って未だ首を傾げておねだり顔をする大ちゃんの手をゆるく握り返すと、嬉しそうに微笑まれた。
ああ、ごめんね誠也くん。でもこれ浮気じゃないから。どうか機嫌を損ねませんように、なんて無理な願掛けをしてみる。たぶん、絶対機嫌悪くなる。だってよりにもよって相手は大ちゃんやし。
「Aさん？」
『あ、ごめんなさい。一旦誠也くんのこと考えるのはやめます』
「ん、よろしい」
優しい顔して頭をポンポンと撫でてきた大ちゃんに一瞬ときめいたのは、恋愛感情とか浮気とかそんなんじゃなくて。だって男の人に頭ポンポンされたらその気はなくても誰だってちょっとはときめくやん？女の子ってそういうもんやん？
少し離れたところからもの凄い勢いでシャッターが切られる音が小さく聞こえてくる。カメラマンさんめちゃくちゃテンション上がってるやん。
「水着、かわいいやん。それ自分で選んだん？」
『ん？そそ。何個か用意して貰ってた中から最終的には自分で選んだ感じ』
「へえ、そうなんや。いいやん。Aに似合ってる」
『へへへ、ありがとう』
「ん、かわいいかわいい」
『ちょっと西畑さん。子供扱いしてませんかね？』
「してないですよ？彼女扱いならしてるけど」
『……大ちゃんのそういうとこほんまきらいやった』
「俺はAのそういう素直じゃないとこ、好きやったで(笑)」
「よし！焼きそば買いに行こ！」って手を引いたままぐいぐいと海の家へと向かう大ちゃん。追いつくように少し小走りになると、何も言わずにゆっくり歩いて歩幅を合わせてくれる。
ほんまに。大ちゃんのそういう優しくてすぐ甘やかしてくるところがきらいやしすきやった。
まだ高校生やったからかなあ。甘やかされるばっかりじゃ嫌やったんよなあ。もっと自立したオトナの女性になりたかったっていうか。高校生が何言うてんねんって感じやけど。
今は別やけど。素直に、……とまではいかへんけど、甘やかされるのも悪くないなって思えるようになった。相手が年上やからなのか、誠也くんやからなのかはわからんけど。
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作者名：てと | 作成日時：2022年9月3日 5時
