18.紫に染まった白は ページ18
┄
｢ー…全然いいっすから、もっと頼ってください｣
えって声が漏れた。
平野くんの腕の中で、身体が震えてグラグラ揺れる。
『はなし、て』
見たい。だって今、優太の声、した。
腕の中でもがく私に驚いた平野くんが私を抑えようと
手を伸ばすのと同時に、傘が地面に音も立てずに落ちた。
雨がぽつりぽつりと降りかかる。
私の方が、平野くんよりはやかった。
ゆうたくん、なんて切なげに呼ぶのは
どう考えても私の嫌いなあの人の声で
もっと頼ってって言ったのは
私の知ってる大好きな、あのゆうただ。
姿を見なくたってすぐ分かる、声がしたから。
こんな厄介なモノいらない。あいつ声大きすぎだよ。
頭で考えようとしなくてももう染み付いちゃってる。
切り離したくても切り離せない感情と一緒に。
真っ白いキャンバスがあっても真っ白い布があっても
染めたのは私じゃなくて優太だ。優太は私の全部だ。
汚いくらいの染みを恨んでも、仕方ないかもしれない。
分かってたのに、目で見たかった。
自分の目で見て知りたかった。
チカチカ光るタクシーに入り込もうとしてる儚げな女の人。
傘もささずに棒立ちしてる制服姿の男の子。
バタン！って小さく扉の閉まる音。
バス停はまだもうちょっと先にあった。
私と平野くんがいる方向とは反対に進んだタクシーに
安堵した。中に座ってる人の顔、見たくなかったから。
誰かが呼んだタクシーに乗ってた女の人は。
雨に濡れるのも構わないあの男の子はやっぱり。
身動きが、金縛りにあったみたいに取れない。
｢遥香ちゃんと…Aちゃんの幼馴染み、やんな？｣
雨が止んだのは
平野くんが私に傘を差してくれたからだろう。
頷くことも顔を上げることもさせてくれない。
だって、今もしこの状況を見られたら、もし見ていたら
優太はなんて言う？
平野くんは答えない私に何も言わなかった。
ただ傘を差して
「なぁ」
『…ん？』
「ちょっとだけ」
『………へ？』
いつも通りへラッと笑って、私の手をぎゅっと握った。
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mun(プロフ) - このお話大好きです！これからも楽しみにしてます！ (2020年10月26日 17時) (
レス) id: 0e3b0babab (このIDを非表示/違反報告)
夏(なの)(プロフ) - コメントありがとうございます！パスワードは作品を見て頂ければ分かると思います。 (2019年1月3日 13時) (レス) id: d826207ec4 (このIDを非表示/違反報告)
みさと(プロフ) - パスワード知りたいです！ (2019年1月3日 12時) (レス) id: f4a3a3a2e7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：夏 | 作成日時：2017年9月10日 9時
