【綾辻行人・こわいもの】 ページ49
＊夢主=綾辻探偵事務所の使用人
──ある日の昼下がりのことだった。
「なあ、A君、こわいものはあるか？」
突然、この部屋の主──綾辻が、使用人たる彼女に問いかける。
遮光眼鏡のその奥の氷点下の目が、使用人の彼女を捉えた。
「うーん、……あ、"冷たいお茶が1杯"こわいですかねえ」
彼女は作業をしながら、ふとそう答えた。
一瞬、なにを言い出したのかと怪訝な顔をしたが、突如なにかを思い出したように。
なるほど、と頷き、綾辻は辻村に向き直り、"冷たいお茶"をいれるように言った。
「は！？なんでですか？というか、彼女が使用人なんですから彼女がやるべきなのでは？」
話の筋を理解出来ていない辻村は噛み付くように綾辻に抗議した。しかし、綾辻はあっさりと、
「いいから淹れてきたまえ」
と、ぴしゃりと言いつけた。
──しばらくして、辻村がコップに入れた冷たい麦茶を恐る恐る彼女へ差し出した。
氷同士が擦れ合い、からんと軽い音を立てる。
涼し気なそれは、Aにとってとても"こわい"ものだった。
「どうぞ……｣
「やだ、綾辻先生ったら。"こわい"って言ってるのにわざわざ用意させてくれちゃって」
彼女は、その"冷たいお茶"を、きちんと飲み干して、「ああこわい」と笑った。
「ふん……」
「あれ、小粋な返しだったと思うんですけど……」
不可思議そうに首を傾げた。まさか、この博識な先生が知らないなんてことはあるまい。
「そういうことではない」
首を傾げたAに、綾辻は煙管を突きつけ、言った。
「サゲを話の冒頭に持ってくるな、無粋だぞ」
──それを、聞いて。
「いいじゃないですか！今どき古典落語なんて知ってる人は少ないですし！ 」
──Aは興奮した。かならずこの小粋な返しを無粋だという綾辻の考えを変えねばならぬと思った。
「だとしてもだ」
「だってだって！この返し１回やってみたかったんです！母親にやっても知らないって言われたし！」
「それはご愁傷さまだ」
「なんなら良かったんです？半鐘がダメとでも言えば笑ってくれました？」
それを聞いて、綾辻は溜息をついた。
「だから、サゲを冒頭に持ってくるな。おジャンにしたいのか」
【くだらないネタだけどやらせたかった。綾辻先生ならやってくれるかなーと。『虚構推理』が元ネタです。
そういえば、早いもので次が最後です。もうちょっとだけお付き合いくださいませ。】
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 96人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
黒バイ(プロフ) - 正装の国木田さんイケメンすぎですよね！死にそうになりました。 (2018年9月27日 14時) (
レス) id: bfca25752a (このIDを非表示/違反報告)
黒バイ(プロフ) - こちらこそリクエストにお答えしていただき有難う御座います。またリクエストする時がありましたら、その時も宜しくお願い致します。 (2018年8月30日 20時) (レス) id: bfca25752a (このIDを非表示/違反報告)
あやな - リクエスト消化ありがとうございました。賢治くんなら確かに受け入れてくれそうですね。ありがとうございました。 (2018年8月29日 22時) (レス) id: deabd34961 (このIDを非表示/違反報告)
黒バイ(プロフ) - リクエスト宜しいでしょうか？国木田さんの誕生日を祝う…と言うお話をお願い致します。 (2018年8月29日 21時) (レス) id: bfca25752a (このIDを非表示/違反報告)
あやな - 書きやすい方で書いてもらって大丈夫です。よろしくお願いします。 (2018年8月25日 14時) (レス) id: deabd34961 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：きゃめろん | 作成日時：2016年10月18日 22時
