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そっとドアノブをひねり、扉を開ける。
騒がしい廊下とは違い、静かな図書室の中は人も少なく落ち着いた様子だった。
図書室なんて調べ物がある時以外来ないけど、こんなに広いんだ。
自分の記憶にある中学や小学校の図書室と比べても、ここの学校の本の量はかなり多い気がする。
天井吊された案内を見ながら、やって来たのは歴史のコーナー。
大正時代、という文字が目につき、その本に手を伸ばす。
『あ、』
「あ」
そっと指先に、本とは別の人肌。
右横を見ると、驚いた様子の男子生徒と目が合った。
整った顔立ちに黒髪、眼鏡から覗く利発そうな赤い瞳には見覚えがある。
『トントンさん…』
「確か、宮本さん…やんな?」
どうやら私のことを覚えていてくれたらしく、お互いに挨拶をする。
文化祭準備のグループが違ったら、こうやって言葉を交わすなんてことないんだろうなぁ。
同じ年、同じ学校なのに、何処か雲の上の存在のような彼を見つめ、そんなことを考える。
『何か調べ物ですか?』
「日本史の課題が今日までやから。もしかして、宮本さんも?」
『いや私は…、文化祭の装飾の参考になりそうな本を探してて、』
「へぇ、真面目やなぁ」
同じグループやし、頼りになるわ。
そう言ってトントンさんは私に先ほどの本を手渡してくる。
「はい、これ」
『いいんですか?』
「ん、俺は別の探すからええよ」
申し訳ない、と思いつつ本をパラパラを覗く。
中は写真よりも文章が多く、参考になりそうなものは案外少ない。
「あんまりやな」
『…ですね』
「別の探そか。俺も手伝うで」
トントンさんは大正時代付近がテーマの本を探してくれる。
『いいんですか?』
「俺も同じグループやし、昨日なにも出来ひんかったからな」
本の中を見て、参考になりそうなページがあれば本をキープしていく。
図書室は静かなため、お互い会話もなく黙々と作業を進めるが、たまに気を使ってくれるのか、トントンさんから、授業はなんのコースとってるん?とか、文化祭はあそこの出店楽しみやな。とか、話題を提供してくれる。
生徒会副会長だし、厳格なイメージがあったが、案外気さくらしい。
「準備の時、他の奴ら迷惑かけてへん?特にゾムとか」
ゾム、というワードに私の手が止まる。
トントンさんは何かに気がついたようで、私と同じく手を止めた。
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悠(プロフ) - 自分が設定してた自分の名前と彼氏の名前が一緒でややこしい事になってましたw奇跡。小説めっちゃ面白いです (2021年5月19日 23時) (レス) id: 7e4efb4011 (このIDを非表示/違反報告)
ゆだ - 面白いですね (2021年3月1日 17時) (レス) id: e2d5e79f0c (このIDを非表示/違反報告)
きなこ - コメント失礼します。すごく面白いです!続きが気になるので更新いつまでも待っています! (2021年2月2日 21時) (レス) id: 4b52fa3010 (このIDを非表示/違反報告)
カコ(プロフ) - コメント失礼します!このお話大好きです!更新待ってます! (2020年11月3日 0時) (レス) id: e319902130 (このIDを非表示/違反報告)
ゴミ箱 - とてもいいお話ですね、読んでいて楽しかったです。更新はいつまでも待っています。頑張ってください! (2020年8月16日 10時) (レス) id: c162b9accc (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:かまぼこ | 作成日時:2020年3月27日 22時