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二人の姿を見ながらぼんやり考える。
私が告白なんかしてしまったせいで、松田くんとの関係を壊してしまった。だから高校を卒業したっきり2人とは一緒にいられなくなって。
ふたりとの時間は、あんなに楽しくて、嬉しくて、私が大切にしていたものだったのに。
懐かしい記憶と共に波のように押し寄せた後悔にも似た罪悪感。それと同時に失われたはずの関係がまた時間を経て再構築されつつある事に、ふと、違和感を感じる。
あれ、私、なんで松田くんといるんだろう。
あの時、同窓会で会った時、もう関わらないって決めたのに。もう諦めるって決めたのに。
私は何で家になんか誘ったんだろう。
自分の中で決めた事と現実が見事に噛み合っていない事に気が付く。
さっき、松田くんに帰ろうかとお店の前で提案された時、私は何故か躊躇ってしまった。戸惑ってしまった。
何が私をそんな気持ちにさせるのか。
動揺も、困惑も、彼を諦めた私には要らないもので、場違いなもので。
それでも、まるで彼との時間を引き伸ばすように家に誘ったのは。
それは、
松田くんとまだ一緒にいたかったから。
『松田……くん、』
「……んだよ」
さっきまでの雰囲気や起こった出来事なんて忘れて、松田くんに話しかけた。松田くんはやや不機嫌そうに私を見る。
『萩原くんも迎えに来た事だし、もう遅いし帰った方がいいよ……っ!明日も仕事なんでしょ?』
「……まあ」
「Aちゃんもそう言ってるし、帰ろうか」
その萩原くんの言葉に、腑に落ちないような曖昧な返事をして松田くんが頷く。
ほら、と私は松田くんの背中を押した。「っおい」と松田
くんが言うのも聞こえないように、グイグイと背を押す。
「じゃあね、松田くん」
「っA……」
松田くんが私の名前を呼んだと同時に強制的に2人を閉め出すように玄関の扉を閉める。チェーンをかけて、ズルズルと扉を背にしゃがみこんだ。
ろくに料理も出来ないくせに家に呼んだのも、私がまだ松田くんと一緒にいたいと無意識にでも思ったからで。
いや、無意識というのは無理がある。
諦められたと思っていたのに。
もうこの長い想いに終止符をうてたと思っていたのに。
『っ……はあ……』
思わず出たため息とともに両手で顔を覆う。
それでも好きにも満たないこの気持ちの芽を摘むためには、会わないのが1番いい。
もう本当に、松田くんには会わないようにしなきゃ。
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✧︎ - 本当に好きすぎて一気読みしてしまいました…素敵な作品をありがとうございます!! (4月14日 1時) (レス) @page50 id: 28351a5556 (このIDを非表示/違反報告)
えりんぎのバター炒め(プロフ) - あわさん» はわわわ神作?神作なんて言ってもらえるんですか……?すごく嬉しいです!私の文章力で松田陣平の素晴らしさを伝えきれているのか分かりませんが……笑 更新頑張らせていただきます💪 (2023年4月16日 18時) (レス) id: 61116f8e5d (このIDを非表示/違反報告)
あわ(プロフ) - 素晴らしい…神作すぎる…更新待ってます! (2023年4月16日 8時) (レス) id: a26e70e8e6 (このIDを非表示/違反報告)
えりんぎのバター炒め(プロフ) - ???さん» ひぇぇ好きだなんて言って貰えるなんて……ありがたいです!続き書きます!そちらこそ体調に気をつけてくださいね(*´﹀`*) (2023年2月26日 17時) (レス) id: 61116f8e5d (このIDを非表示/違反報告)
えりんぎのバター炒め(プロフ) - アリアさん» 本当ですか!?そう言ってもらえるなら喜んで続きを書かせていただきます(^ - ^ )コメントありがとうございます! (2023年2月26日 17時) (レス) id: 61116f8e5d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:えりんぎ | 作成日時:2023年2月22日 17時