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卒業式が終わって、後片付けをしていたとき。
目に入った、国語準備室。
全ては、ここから始まったんだったな。
ここで、告白して、ここで、付き合うことになって、ここで、…たくさんの思い出が出来た。
この場所とも、この学校とも、2度目の別れかと思うと、少し寂しい。
ガラリ、少し、音が軋むドアを開けると、思い描いた通りの人がいた。
「さーくらーいせんせー」
「大野…先生、どうした？」
つい、癖で呼び捨てにしようとして、慌てて直す様子が可愛い。
「大丈夫、このへん、しばらく誰も来ないし」
「…根拠は？」
「あ？勘」
「…ふはっ…、ダメだろそれ」
クスクスと、翔が可笑しそうに笑う。
俺も、釣られて笑った。
「それで、どうしたんだよ、なんかあったか？」
小首を傾げて、立っている俺を上目遣いに見つめてくる。
やっぱり可愛い、すごく可愛い。
「また、ここから始めようかなって」
きょとん、と、翔が俺の言葉を理解しようと、頭を回転させる。
「翔」
「…なんだ？」
7年前から待たせてた、だから…。
「俺の、傍にずっと居てください」
あの時と同じように、そっと手を握る。
俺が包み込んだ手を離すと、翔の左手には、小さな小さな、箱。
「…開けて、いいか？」
「もちろん」
翔が、微かに震えているように見える手で、その箱を開けた。
中には、
「指輪…」
「作ったんだ」
「作ったのか！？…うますぎだろ…」
オリジナルリングを作って、翔にプレゼントしたかった。
我ながら、結構うまく作れたんじゃないかと思う。
「俺らは、結婚とか、そんなんは出来ないけど、ずっと一緒にいたいから…この指輪、受け取ってもらえますか？」
「…はい」
翔は、泣きながら、笑顔で頷いてくれた。
左手薬指。銀色のリングと、派手に主張しない乳白色の石が、翔の指を飾っていた。
「この石って…“ブルームーンストーン”か？」
「うん、よく覚えてたな」
「覚えてるに決まってるだろ」
7年前、俺が翔に贈った指輪にも、同じ石が付いていた。
ふふ、と嬉しそうに指輪を見つめていた翔がふとこっちを向いて、一言。
「なぁ、智、…月が、綺麗ですね」
俺に残された答えは、1つしか無かった。
「ああ、…死んでもいいわ」
国語準備室から始まった関係は、これからも、ずっと、ずっと、続いていきそうだ。
隠れた「I love you」を、囁きながら。
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作者名：salt_* | 作成日時：2017年8月29日 20時
