6.名前 ページ6
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『あの…手を…そろそろ…』
あ〜ごめんごめんと手を離した。
本当にごめんと思っているのかは分からない、
相変わらず優しそうなんだけどどこか冷たい瞳。
私はこの瞳に、心を奪われたままだ。
離してとは言ったものの、少し店員さんの体温が残った手の温もりに寂しさを覚えた。
ハオ「重いね、これ」
机に置いていた重いはずのダンボールを
細い手でいとも簡単に持ち上げたくせに
ね?と少し私の方に頭を傾けて言う店員さん。
『はい、手伝ってもらっちゃってすみません』
ハオ「ははは、いいのいいの。」
すごいナチュラルにタメ口を使われてる。
いつもは店員さんと客だから、慣れないなこの感じ。
てか、人の懐に入る能力、すごいな…。
『タメ口、変な感じします。笑』
ハオ「あ、つい。ごめんね?敬語の方がいいかな?」
『いやいやいや!そういう事じゃなくて!その……嬉しいです、距離が縮まった感じがして…はい…』
自分で言っといて少し恥ずかしくなってきた…
顔が赤くなってる自覚がある。暑い。
店員さんはそんな私を見て
ハオ「なんでAちゃんが顔赤くしてるの笑笑」
『いや……』
ハオ「嬉しいよ僕も。こうしてまた会えてさ」
『……っ』
また、あの冷たいのに優しい瞳でそう言う。
その度に私の胸が高鳴っているのに気づいているのだろうか。
ハオ「じゃ〜、お店以外ではタメ口にしちゃおうかな」
『ぜひ…!』
廊下に差し込む光がまた店員さんを包み込み
いつも以上に店員さんは暖かい雰囲気に包まれていた。
?「A!」
そんなとき誰がが私を呼ぶ声が廊下に響く。
『ハンビン…?どうしたの?』
ハンビン「……ソクフン先生が呼んでる」
『えーー。私何かした……っけ?』
いつも太陽のような笑顔が取り柄のハンビンが
今日ばかりは目の前の店員さんを見つめ、
少し鋭い目をしていて、思わず言葉が詰まってしまった。
ハンビンはハッとしていつもの優しい笑顔に戻った。
ハンビン「わかんない。それ代わるから行きなよ笑」
『う、うん。わかった』
私の持っていた軽い方のダンボールをひとつ手に取り、私の背中を押したハンビンにありがとうとだけ言い、私はその場を離れようとした。
ハオ「Aちゃん!」
『え?』
ハオ「また明日ね」
『はい、また明日…!』
私はハンビンと店員さんに手を振り、今度こそその場を離れた。
Aちゃんか…
この名前でよかったかも、と初めて思った。
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作者名:ミイ | 作成日時:2023年7月16日 21時