太 宰 幹 部 の 包 帯 事 情 ２【太宰治】

カルテ４２枚目【隠蔽】 ページ8

『言いたい事は、それだけ？』




医師が優しすぎる声で聞く。
そんな声をされると、もう何も言えなくなってうつむいた。




『何が、嫌だったの……？』



私の手を軽く握ってくる。
叫びすぎて疲れてきた私にはそんな行動すらも優しく感じて、怖くなって、思わずちょっと離れた。
医師は表情を変えずにそのまま、問い続ける。




「………織田作の、こと…名前で呼んでた」




織田作のことを、作之助って言って、
レッド・レモールなんてかっこいい渾名も貰ってて、羨ましくて。
私だけじゃないんだ、ってがっかりしたような、絶望したような感じになって。
いろいろ分かんなくなって、自然に拒絶してた。




『他には？』




「………楽しそうに、織田作の診察、っ、とか……してるし、他の、看護師さんと……ひっく、遊んでるしっ………私、っ、も…要らないんじゃないかって……なって、それで、嫌で…っ」




涙が溢れてきて、拭う気力もなくて、
そのまま流し続けて、またソファを濡らして。
血と混ざってしみる。痛いけど、欲しいのはこの痛みじゃない。
こんな胸が痛いのは、ほしくない。





『ふぅ………君は昔からヤキモチやきだなぁ』




私の手をしっかり握って、私を見てくる。
泣いてるのなんてもうどうでもよくて、痛いのなんて忘れそうで、只、今はすっごく寂しくて、人肌が欲しくてたまらない。




「ふっ、うっ、ひぐっ…織田作が、一番？」





『ん？』




「おださくのこと、っ、一番なのっ？
私は、つぎ？……にばん？さんばん？
やだよ。やだよ……一番がいい。
せんせいの、一番がいいの…っ。そうじゃなきゃ、やだ。ぜったいやだ！」




医師の胸に顔を押し付けて、子供みたいに泣いてヤダヤダって駄々こねて。
私はこんなにも子供で無力だ。
これだからダメなんだ。私はもっと殺さなきゃいけないのに。自分を、他人を、優しさを、情けを、欲を、感情を。
だのに、この人がそれをさせてくれない。
私のことを捕まえて離さない。





『一番が欲しいの？』




「んっ、うんっ。せんせ、の一番がいい。全部私が最初がいい」





触れるだけのキスも、長いキスも、添い寝も、その先も、私がいい。
だって、だって。





『……….じゃあ、一番あげるよ』





そう言われて、唇にあったかいのが触れた。それはやっぱり大庭医師の唇で、でも少しだけ前とは違う。




「んむっ……っふ、はぁ……っ」





長くて熱い、大人なキスだった。

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