カルテ70枚目【違え】 ページ36
解剖室で女は手を止めた。
そっと目の前の死体を撫でて涙をこぼす。
『ねぇ、起きて……』
涙がまた一つ一つと溢れて、死体の頬を伝い落ちた。赤い髪が凛と美しく、開かない目には希望がいつも宿っていた。夢を追っていた。
その足取りが不意に止まった時だった。
『傷は塞がったよ…銃弾だって、取り除いた………。もう、起きていいよ……?
いつもみたいに笑って、手を引いて……ね、お願い……』
その姿を影でそっと見つめている男が、憂うげに目を伏せた。包帯に外した右目から涙が同じように流れた。
『海で、小説……書くんでしょ…?
………覚えてる?君が僕に初めて会った時……君は僕を認めてくれた。素敵だって言ってくれた。ねぇ、聞いて………
僕も君を認めてたんだ。
君の方が素敵だって、ずっと言いたかった』
頭を撫でる手は優しい。
それでも儚く壊れそうで死体は無慈悲に冷たい。
女は大粒の涙を枯らして呟いた。
『謝るから、目開けてよ……。
いっちゃ、やだ……やだよ…っ。
……そばにいてよ…っ、作之助っ』
亡き夫に妻が悲痛な叫びを散らすように
女は涙を散らした。
影から見ていた男は何もできない自分の拳を固く握った。
女の涙が死体にこぼれ落ち、
まるで死体が悲しみに泣いているように見えた。
ーーーー
ーー
ー
解剖室から出て、すぐ近くの部屋の前で太宰君が立っていた。
無表情でありながらかすかに作之助と同じ光を目に宿していて、ここから去ることを悟った。
「………医師」
『言わなくてもわかるよ。
マフィアを出るんでしょ?いいよ、止めない。
進みたいように進めばいい』
太宰君が僕に手を伸ばしている。
その意図を汲み取って手をはねのけた。
それから、彼の頬に手を当てて目を合わせた。
『…………』
「…私は死なない。貴女を一人にしないから……だから、私と…」
『ごめんね。僕はここを離れたくない』
離れることはできた。
きっと今から彼の手を掴めば、この組織から抜け出して彼がしたかったことを成し遂げられるだろう。でも、今は離れたくないという願望の方が強い。今だけ、気持ちに素直になりたかった。
太宰君は納得して少し悲しそうに笑った。
僕に塩っぱいキスをして、愛用していた黒い外套を脱ぎ捨てて行った。
彼の外套を取って僕もそっとキスをした。
去ってもまた会えることを願って…。
………続。
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NamE.薆(プロフ) - 赤珠(元 チョコうさ。)さん» もしよろしければリクエストォォォ!! (2018年1月1日 22時) (レス) id: 71af860354 (このIDを非表示/違反報告)
NamE.薆(プロフ) - 赤珠(元 チョコうさ。)さん» そ、そ、そ、そのつもりでございましたぁぁぁぁあ!!!!やりますやります!頑張ります! (2018年1月1日 22時) (レス) id: 71af860354 (このIDを非表示/違反報告)
赤珠(元 チョコうさ。)(プロフ) - 続編…だと…!?この流れからしてあのパターンだよね?うわあああああああああ!!もしよければ与謝野さんと話しして欲しいですー!!!!!! (2018年1月1日 21時) (レス) id: 5fa7fae13e (このIDを非表示/違反報告)
赤珠(元 チョコうさ。)(プロフ) - ぬおおおおおおお!!!!…。←語彙力 控えめに言って…神です。(真顔) (2017年11月13日 8時) (レス) id: 5fa7fae13e (このIDを非表示/違反報告)
赤珠(元 チョコうさ。)(プロフ) - NamE.薆さん» なぬ…!?…。死亡フラグが思いつかねぇ。← (2017年11月5日 10時) (レス) id: 5fa7fae13e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:NamE.薆 | 作成日時:2017年10月27日 19時