カルテ66枚目【彼にできて私にできぬこと】 ページ32
『ぁはは、なんだか、あったかいなぁ』
たどたどしく話すのを姿を見ずに只そのままでいた。きっと、泣きそうなのだ。
それがわかってしまった。
大庭医師の震えている体を抱きしめている自分。あったかいと嗚咽の含まれる声で囁いた彼女の淡い弱さ。それを包み込むほどの大きさを私は持ち合わせていない。
包み込めない。全てを守ってあげられない。
それが悔しくて悔しくてたまらない。
『……はは、は……ぁ、ねぇ』
不意に呼ばれて顔を見れば、少し腫れた柔らかい目が私に近づいてきていた。
「んっ、ふ……ぁ…は………っ」
『っ、ふ………』
優しく甘酸っぱいそれは、少し涙の味がした。
『ありがとう』
それだけをようやく聞けて、私も少し微笑んだ。
あの時、彼ならどうしたのだろう。
優しく抱きしめて、告白でもしたのだろうか。柔らかく笑ってから強い言葉を言ったのだろうか。
彼女を安心させてあげられて、
ひどいくらいに優しいぬくもりを与えて、
幸せだと言わせてあげられる、
そんなことが、できたのだろうか。
彼____________織田作には。
そんな邪な考えが出てきて大庭医師から離れた。医師は追わなかった。私のことがわかってるみたいに微笑んで、軽く手を振った。
伝う涙を拭えない。
それは私の役目じゃない。
振られた手に嘘の笑みで返してそっと部屋を出た。嗤うような月夜が私を見ていた。
隔離棟の入り口で私と入れ違いになった男は、やけに悲しそうな目で私を見て、何かを言いかけて何も言わずに棟の中へ入っていった。
ーーーーーー
ーーー
ー
暗がりの巣に広がるほのかな酒の匂い。
私行きつけのバーで珍しく酒を飲んでいる丸眼鏡の男がいた。少し酔い気味なのか赤く頬を染めて、マスターに少し食い気味で話をしていた。
彼、坂口安吾が私に気づき一つため息をついていつもの席を空けた。
私の特等席。その左隣が安吾。右隣には織田作。
これが鉄板で当たり前で、不可思議だった。
「私の特等席に座ってるなんて、随分と酔っているようだね、安吾」
「………太宰君」
私を再度認識して煩わしそうにため息をつく。私の分の酒も頼んでくれたところを見ると、私がここにきた理由がなんとなくわかっていて、しかも本当に珍しく奢ってくれると言うことらしかった。
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NamE.薆(プロフ) - 赤珠(元 チョコうさ。)さん» もしよろしければリクエストォォォ!! (2018年1月1日 22時) (レス) id: 71af860354 (このIDを非表示/違反報告)
NamE.薆(プロフ) - 赤珠(元 チョコうさ。)さん» そ、そ、そ、そのつもりでございましたぁぁぁぁあ!!!!やりますやります!頑張ります! (2018年1月1日 22時) (レス) id: 71af860354 (このIDを非表示/違反報告)
赤珠(元 チョコうさ。)(プロフ) - 続編…だと…!?この流れからしてあのパターンだよね?うわあああああああああ!!もしよければ与謝野さんと話しして欲しいですー!!!!!! (2018年1月1日 21時) (レス) id: 5fa7fae13e (このIDを非表示/違反報告)
赤珠(元 チョコうさ。)(プロフ) - ぬおおおおおおお!!!!…。←語彙力 控えめに言って…神です。(真顔) (2017年11月13日 8時) (レス) id: 5fa7fae13e (このIDを非表示/違反報告)
赤珠(元 チョコうさ。)(プロフ) - NamE.薆さん» なぬ…!?…。死亡フラグが思いつかねぇ。← (2017年11月5日 10時) (レス) id: 5fa7fae13e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:NamE.薆 | 作成日時:2017年10月27日 19時