カルテ62枚目【美味しい】 ページ28
『きみの血の臭いだ!あっはは!!』
唇を私の首へと押し付けて、鼻を突きつけて何度も匂いを嗅ぐように動く。
息が当たる。熱い、熱い吐息だ。
『美味しそうな匂いだ。甘い、甘いお菓子みたいな匂いがする』
欲しくてたまらないと言いたげな瞳。
潤んだそれを見て違和感を覚えた。
「____________違う」
違う、違う!!
私の知ってる大庭医師は。
私の大事な大庭医師は、こんな人じゃない。
その潤んだ瞳にだけ、私は恐怖した。
違う人を見ているみたい、違う女を見ているみたい、違う生物を見ているみたい。
違和感に、思わず後ずさった。
『違う?何が?
君の大庭医師だよ?君がナースで僕は医者。そういう関係の、僕たち。
正解だろう?不正解かなぁ?正解だよね』
「食事はここにおいておきます」
それだけ告げて棚に食事を置き、早めに出ようとした。しかしその手がその体が押さえつけられた。
『ねぇ、イカナイデ?』
やけに子供じみていて、やけにゾクゾクして
乱暴じみた声質で、妖艶な言い方で、全てが混ざってわからない。聞き覚えのないその声。
私はその声がひどく悲しく聞こえ、振りほどけなくなった。
「っ、離せ」
『やだね。君だって待ってただろう?僕からこうして君を求めるのを。
こうして話を進めて、こうして留めてくれることを、望んでいただろう?欲しかっただろう?』
欲しくない。
欲しくないんだ。私が欲しいのはいつもの大庭医師で、それを確実に欲しいんだ。
望んでいたかもしれない。
欲しがっていたのかもしれない。
でも、本当に欲しかったのはそうじゃないんだ。
かさりという音がして、何かが落ちた。
ポケットに入れていたそれ。
朝、一番良くできたものを入れて来た、貴女に最初に渡したもの。
『この、クッキー……』
大庭医師が、私から離れた。
落ちたクッキーの袋を拾い上げ、大事そうに両手で包んだ後、ゆっくり袋を開けた。
これに薬入れてない。
純粋に、食べて欲しかったから。
今度は汚れてない。味だって大丈夫なはずだ。
「……それだけでも、食べてください」
食べてくれなくても大事そうに持ってくれただけでいいのだけれど。
やはり、食べてほしい。
そっと唇が触れてさくりと音が静かなその部屋に響いた。
『………美味しい』
優しいいつもの声の大庭医師が、儚げに涙を流した。
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NamE.薆(プロフ) - 赤珠(元 チョコうさ。)さん» もしよろしければリクエストォォォ!! (2018年1月1日 22時) (レス) id: 71af860354 (このIDを非表示/違反報告)
NamE.薆(プロフ) - 赤珠(元 チョコうさ。)さん» そ、そ、そ、そのつもりでございましたぁぁぁぁあ!!!!やりますやります!頑張ります! (2018年1月1日 22時) (レス) id: 71af860354 (このIDを非表示/違反報告)
赤珠(元 チョコうさ。)(プロフ) - 続編…だと…!?この流れからしてあのパターンだよね?うわあああああああああ!!もしよければ与謝野さんと話しして欲しいですー!!!!!! (2018年1月1日 21時) (レス) id: 5fa7fae13e (このIDを非表示/違反報告)
赤珠(元 チョコうさ。)(プロフ) - ぬおおおおおおお!!!!…。←語彙力 控えめに言って…神です。(真顔) (2017年11月13日 8時) (レス) id: 5fa7fae13e (このIDを非表示/違反報告)
赤珠(元 チョコうさ。)(プロフ) - NamE.薆さん» なぬ…!?…。死亡フラグが思いつかねぇ。← (2017年11月5日 10時) (レス) id: 5fa7fae13e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:NamE.薆 | 作成日時:2017年10月27日 19時