カルテ60枚目【拒絶】 ページ26
『誰かを助けちゃ、いけないの?
…….っ、僕、悪い子なの…?』
弱い力で私を叩いてくる。
行き場のない空白の悲痛が私に刺さって抜けていく。壁に追いやった医師をそっと抱きしめようとした。でも、できなかった。
抱きしめたかった。
手が動かなかった。
何故かはわからない。でもその時、本当に手が動かなかったんだ。
震えている。震えた医師の肩を抱きすくめて、かっこいい言葉を言える自信がなかったからか。
または、それをしようとするのを過去の自分が鎖を引いて止めてしまったか。
「………落ち着きましたか」
何もできないまま何歩か離れて、適当に言葉を投げかける。
医師が、震えた自分の体を抱きながら、血を流した。
「っ、医師!!」
『来るな』
医師は低い声でそう言い聞かせた。
吐血した残りの血が口の端から溢れている。
『異能を長時間使用していることによる体への負荷が原因だ。直ぐに傷はふさがる。問題ない』
冷たく事実を告げて、ベッドに座り込む。
じっと私を睨みつけて、低く呟いた。
『帰ってくれ』
私はそれを拒否しようとした。
拒否しようとして、踏みとどまった。
きっと、大庭医師は今の自分を見られたくないんだろう。あの時。
私が大庭医師を拒絶したように、今、大庭医師は私を拒絶している。
壊れてしまいそうな自分を見られたくなくて、逃げようとしている。
それに私が今触れてしまったら。
「分かった」
私は一言だけ言って扉を開けた。
管理人はもういなかった。管理人がいなくなったら誰がこの塔を管理するんだ、なんて思ったが、それは入り口の前で門番のように立っていた。
「中也」
「ンだよ、しけた面しやがッて」
中也が棟の外壁に体を預けて煙草をふかしている。今は彼と口喧嘩をしている気力も残っていなくてそっと中也の前を通り過ぎた。
「……何かあッたンだろ」
それは確証だった。
相棒を続けてもう一年半くらいになるのだろうか。もっと長いかもしれない。逆に短かったかもしれない。それでもわずかでも相棒として私と対となった青年の、確かな確証と信用の言葉。
無下にするわけにもいかず、またそんなふうに繕える体力も残っていなかったため、彼の隣で彼と同じ煙草をふかしてそっと息を吐いた。
「………拒絶されるってこんなに辛いんだね」
私が独り言のようにつぶやくと、
中也は何も言わずに、只、ハッと鼻で嗤った。
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NamE.薆(プロフ) - 赤珠(元 チョコうさ。)さん» もしよろしければリクエストォォォ!! (2018年1月1日 22時) (レス) id: 71af860354 (このIDを非表示/違反報告)
NamE.薆(プロフ) - 赤珠(元 チョコうさ。)さん» そ、そ、そ、そのつもりでございましたぁぁぁぁあ!!!!やりますやります!頑張ります! (2018年1月1日 22時) (レス) id: 71af860354 (このIDを非表示/違反報告)
赤珠(元 チョコうさ。)(プロフ) - 続編…だと…!?この流れからしてあのパターンだよね?うわあああああああああ!!もしよければ与謝野さんと話しして欲しいですー!!!!!! (2018年1月1日 21時) (レス) id: 5fa7fae13e (このIDを非表示/違反報告)
赤珠(元 チョコうさ。)(プロフ) - ぬおおおおおおお!!!!…。←語彙力 控えめに言って…神です。(真顔) (2017年11月13日 8時) (レス) id: 5fa7fae13e (このIDを非表示/違反報告)
赤珠(元 チョコうさ。)(プロフ) - NamE.薆さん» なぬ…!?…。死亡フラグが思いつかねぇ。← (2017年11月5日 10時) (レス) id: 5fa7fae13e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:NamE.薆 | 作成日時:2017年10月27日 19時