太 宰 幹 部 の 包 帯 事 情 ２【太宰治】

カルテ５１枚目【本性】 ページ17

「……医師。食べれ、ますか？」



『……べ？…ぇっ？ぅ、ん。たべ、れる……よ。だか、ら………おいて…』




置いておくだけじゃあきっとこの人は食べない。散乱したものは、おそらく昨日首領がもっていった食事だろう。
何も食べないと流石の医師も倒れる。





「倒れちゃいますよ」



『いい……っあとで、ぁっ、で』




頑張っているのがわかる笑みで私に向かう。
そんな顔をしないで。
苦しそうに笑わないで。




「笑わないで」



『………っ。おいて、出ていって』



やっと聞こえる声の普通の言葉が聞こえた。
やはり、置いて出ていって。
何がダメなのか。ここで食べることか、私がいることか。
でもこの人にそれを聞いてはいけない気がする。
きっと、それはダメだ。





「せ、せめて、水だけでも」




『いい……、いらない。いらない！』




苛立ちをあらわにして、水の入っていたコップを投げ捨てる。コップが割れて中身がこぼれる。医師はそれを見てなんだか辛そうに顔を歪めてから、じっとうずくまって私の話に反応しなくなってしまった。





「……………」




『……………』





会話もなく、ここにいてはまずいと思って、静かに扉を開けた。食事は棚の上に置いて、食べないであろうことを悟った。
管理人さんが帰ってきた私を見て、しれっと微笑んだ。嘘の笑顔が、あまり刺さらなかった。
どうでもよかったのだ。
私はあの人に何もできなかった。
あの人に、何か助ける言葉を与えることもできなかった。



次に食事を持っていける日が来たら、
必ず何かを残してこよう。
あの人が少しでも、安らぎを覚えられるように。







ーーーー


ーー


ー





揺さぶられる脳の中で、うっすらと見える景色。
歪む視界、汚れた世界。
全てが僕の敵。全てが僕のもの。全ては僕に、全ては僕が。
僕は守れなかった。
何も守れなかった。




「大庭医師」




聞き覚えのある声。
そっと平穏を取り繕う。
しかし脳がそれを拒む。使用され続ける脳がこれ以上の使用を拒んでいる。
でも、ダメだ。
平穏を取りつくろえ、笑わせろ、泣かせるな。
だめだ。
この人は、太宰君は、ダメだ。
この人の前で、僕を見せたらきっと、きっと。




「笑わないで」




その声が僕の脳に染み渡った。
全部知ったような声。
ダメだ。反応するな。
お願い、早くいなくなって。






僕の本性が、君に牙を剥く前に。

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