前奇談第10話 空白を埋めるのは君じゃなきゃ嫌だから。 ページ12
中也はとっさに目の前の人物の腕を掴んだ。人物は驚愕したように目を丸くしながら、じっと中也を見た。
「君、何の「する」………ぇ?」
中也にとってその人物は二の次であった。中也がこの人に惹かれたのは美形だったからでもセンスがあったからでもない。
ただ、包帯を巻いていて、僅かに知った匂いがしたからだった。
「太宰の匂いがする」
純粋無垢な瞳をその人物に向けた。
疑問がある。
なぜこの人から、旅に向かった者の匂いがするのだろうか。
なぜ、嫌いなやつと姿を重ねてしまうのだろう。
「ぁ…………っ、えっと」
人物が中也を睨む。
中也はそれを痛いほど感じたようで自分の腕を抱きながらそっと手を離した。
俯いて帰ってこない答えに戸惑いながらも決して逃げ出しはしなかった。
「……………君、太宰君の知り合い?」
「だ、太宰を知ってるのか?!」
太宰の名前が出た。
この人は旅に出たはずの知り合いを知っていた。今どこにいる、なにをしている、ちゃんと食べているのか、彼奴はあまり物を食べない、だからちゃんと世話してやらねェとすぐに死んじまう、後は、あとは。言いたいことがいろいろあって出てこない。
「太宰君はボクの所で勉強しているんだ。
とても難しい勉強をね」
「べん、きょー?」
女性の言ったことへの食い違い。
しかし、目の前の人物が続けたため聞き漏らさないようにしっかり耳をすませた。
「だからもう一週間くらいは帰れないんだ」
「そう……か。あ、あの!」
「なに?」
「太宰に、言っておいて………ください。
その、お前の分のお菓子まで食べてやる。嫌だったら早く帰ってこい、って」
最近よく出るお菓子はとても美味しかった。
訓練の後にはとても美味しく感じていた。
なのに、最近はあんまり美味しくない。
自分一人だけだから、もう一人のぶんも食べれるのに、甘くて美味しいのに。
美味しくないように感じる。
中也は分かっていた。自分が一人だからだと。
なにをしても、なにを食べても、満たされないのは隣にいたはずの誰かが消えて、ぽっかりと空いてしまっているからだと。
だから、早く帰ってきてほしい。
お菓子を食べてしまう前に。空いた空白に誰かが入ってくる前に、誰でもない、太宰に帰ってきてほしかったのだ。
「………わかった。太宰君に伝えておくよ」
人物が優しく笑った。
少年も、安心して笑った。
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486 - ビビりまくりの太宰さん凄く可愛いです。こういった小説をあまり見掛けないので、この作品を見付けた時静かに天を仰ぎました。素晴らしい小説を有り難う御座います。(ボソッ) (2021年12月27日 23時) (レス) @page23 id: 95e132c874 (このIDを非表示/違反報告)
コノン - リクエストで太宰さんが夢主に悪戯(イタズラ)をしてみたをお願いします!! (2018年5月11日 21時) (レス) id: a71a5af7c9 (このIDを非表示/違反報告)
リネン - リクエストで【夢主ちゃんが安吾に会った】をお願いします( *´艸`) (2018年5月11日 21時) (レス) id: a71a5af7c9 (このIDを非表示/違反報告)
夏目(プロフ) - 何コレ太宰さん天使じゃん!これからも更新頑張ってください!応援してます! (2018年5月7日 20時) (レス) id: 6f15b8d456 (このIDを非表示/違反報告)
七葉 - ビビってない(ビビってるけど慣れてきている?)太宰さんもいいけどビビりな太宰さんもいい!やはりビビりですな!前奇談も頑張ってください!応援してます! (2017年10月31日 23時) (レス) id: c2da3d0588 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:NamE.薆 | 作成日時:2017年9月3日 20時