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あの男が来てから、今日で一週間。
2、3日落ち着かないというか、ソワソワしてた神威も落ち着いてなんら変わりない日々を過ごした。
買い物したり、一緒に畑のお世話をしたり、休診と知らずに来た患者に対応したりと、充実していた。
A「今日は雪が降るらしいよ」
神威「通りで寒いはずだね」
頬に軽く口付けながら、擦り寄ってくる神威の頭を撫でる。
神威「…俺がいない間に浮気しないでね」
A「へ…?」
いない間って、なに?
神威「阿伏兎と会った日、思い出したよ、自分のこと」
A「そ…そうなんだ、それは…良かった」
神威「うん。だから、俺は行くよ」
A「…私を護ってくれるんじゃ、ないの?」
絞り出した声は、震えていた。
神威「護るよ」
肩に顔を埋め、背中に回されたその手は少し震えていた。
神威「Aも、Aの護りたいものも全部」
A「かむ…」
神威「それに、アイツらには戻る場所なんてない。前しかないんだ、進むしか、ない」
A「団員達のこと…?」
神威「俺もそうだった。運良く帰るところが出来たけど、ぬけぬけと俺だけ悠々自適に過ごす訳にはいかないよ。団長として」
A「…」
神威「俺の中の血に飢えた獣に負けてしまいそうな時もあるかもしれない。でも約束するよ、前みたいに戦いに興じはしない。俺は、護るために戦う」
A「あ…」
離れた温もりに手を伸ばすも、それは宙に舞った。
神威「必ず戻ってくる。だから、それまで待っててくれる?」
ドアの前で立ち止まり、こちらを見ずに力のない声で話す神威に、私は言葉が出なかった。
彼の決意に、行ってらっしゃいと言いたいのに。
私はどこにも行かないと言いたいのに。
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作者名:ぺち | 作成日時:2021年2月8日 12時