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A「うん、今日も誰も来なかったなぁ!」
閉める前に軽く掃除をしていると、神威達が帰ってきた。
神楽「じゃ、私は帰るネ、気が向いたらまた来てやってもいいアル」
A「気を付けてね」
またね、と手を振り、神威におかえりと言うと、ただいまと笑い返してくれた。
A「念の為、身体の具合見てみようか」
神威「もう治ってるよ」
A「念には念をだよ。さっき急に動いたんだし」
服を脱いでもらい経過を見ると、記憶を忘れる程重症を負っていたのが嘘のように、傷跡のひとつもなかった。
A「すっかり良くなったね」
神威「だから言ったでしょ」
A「…記憶はまだ戻らないけど、人間関係の構築に問題はなさそうだし、行きたい場所があるなら、もう私に止める義理はないよ」
少し寂しいけど、ね。
ここを出ても、畑には来られるし未来ある彼を引き止めることは出来ない。
神威「出て行けってこと?」
A「そんな言い方してないでしょ。ただ、私の手の届く範囲にいる必要はないってこと」
うーん、と言いながら何か考える素振りを見せると、突然私のデスクに頭を打ち付けた。
A「えええぇえ?!何してんの?!デスクにヒビ入ってんだけど?!」
神威「先生〜、怪我しちゃったぁ」
A「は、え…?」
神威「また治療よろしくね」
謎の行動に、私の思考は止まっていた。
神威「護りたいものも、見つかったし」
A「それは…良かったね」
神威「うん。だからAの傍に居させてよ」
おでこから血を流す姿と穏やかな声色のギャップに、言葉の意味を理解するのに時間がかかった。
A「な、なに言ってるの、私は神威みたいな子どもに護られるような大人じゃないです〜」
誤魔化すように茶化すと
神威「子ども扱いしないでよ。俺、Aが思ってるほどガキじゃない」
不意に奪われた私のファーストキスは、少しだけ鉄の味がした。
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作者名:ぺち | 作成日時:2021年2月8日 12時