ひと匙の幸せ【衣更真緒】

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「 今は授業中のはずですけど、そっちこそサボってていいんですか、委員長？ 」

「 なんだよ気持ち悪い敬語なんて使って。うちの担任が探してたんだよ、お前のこと。音楽科からお前がいないって連絡があったんだと 」





そういったことは別に初めてではない。

だというのに音楽科は律儀に毎回こちらに連絡をよこし、そしてこの男はいつも私を迎えに来る。

ほんっと、迷惑ったらありゃしない。





「 ほっといてよ。どうせ戻ってもアイドル科の曲 書かされるだけでしょ 」

「 …なぁ、そんなに嫌なのか？ 曲 書くの 」

「 あんただって知ってるでしょ。私、月永先輩の代わりにされてるだけ 」





身体の方向を変えて、衣更に背を向けた。

腕を枕にして、もう一眠りしようと瞼を閉じたけど、近くに気配を感じてすぐに目を開く。





「 やっぱ、嫌だよな 」





近くにしゃがみこんでこちらを見下ろす衣更は、どこか悲しそうな表情をしている気がするけど、太陽が眩しくてしっかりとは見えない。





「 ほら、早く帰ってよ。私はもう少し寝たいの 」

「 月城の書いた曲、歌ってみたいよ、俺 」

「 は、はあ？ 何それ、同情のつもり？ 」





むくりと身を起こすと、ぶつかりそうになった衣更が慌てて立ち上がる。





「 私は、私の書きたい時に、書きたい人に曲を書くんだから。他を当たってよね！ 」

「 ちょ、待てって、月城！ 」





もう目が冴えてしまった。

今日は音楽科に戻って、倉庫で思うがままにメロディを五線譜に書き起こそう。





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