嘘八十つ ページ30
「蔵永？
誰だそれは？」
国木田が冷徹な視線を注ぐ。
「こいつの名前は市野江 慈恵だ。
蔵永なんて名前じゃない」
大宰は顔色を変えて振り返った。
「嘘・・・ですよね？
そうですよね、蔵永さん・・・？」
「あの、その・・・」
味方と敵の両方からの攻撃。
真依は胸が詰まった。
嫌いな人から責められても心は痛いが、好きな人から責められるのはより一層辛い。
その構図を作り出すため、あえて他人のフリをして近づいたのだ。
作戦を聞いたとき、真依はここまでやるのかと思った。
だが大宰は言った。
『嘘憑きには心に隙を持っている人間がなる。
その隙を�狃�王�瓩頬笋瓩蕕譟�嘘憑きになるんだ。
だから他人から何を言われても通じない。
だが心を開いた人間なら別だ。
心に隙があったということは、本能的に誰かに救いを求めている。
つまり味方になってくれる人には弱い。
事実�狃�王�瓩寮�脳が解けるのも、信頼できる人物がいた場合の方がずっと早い』
大宰は続けてこう言った。
『これが警察ができない、嘘憑き攻略法の一つだ』
相手が嘘を言う以上、警察はそれを当然咎める。
そうなるともう心を開きはしない。
もっと嘘をつき続けるようになる。
だが何者にも縛られない探偵ならばどうだろう？
嘘をついて近づき、共通の趣味で盛り上がり、仮初めの味方となることさえ可能となる。
「蔵永さん・・・いえ、市野江さん、いいんです。
今日会ったばかりの人に名前を言うのは危険だと思ったんですよね？
わかります」
大宰が困惑する慈恵に自ら逃げ道を作り出す。
「その・・・すいません」
「いいんですよ。
オレはそんなこと気にしていませんから」
嘘による経歴。
嘘による趣味の共有。
そうして作り上げられた虚構の味方。
嘘、嘘、嘘ばかり。
真依は眩暈を覚えた。
「でも、もう嘘をつく必要はありません。
六月十六日、オレが見間違いをしただけで、地下駐車場には行っていない。
そうですよね？」
「・・・はい」
「おい、先ほど嘘をついたばかりだろう。
そんなこと信じられるか」
国木田の悪役ぶりも堂に入っている。
元々鋭利な雰囲気を持っているだけに、敵に回った時の冷たさは氷点下に届きそうな勢いだ。
この人とは絶対に争いたくないと真依は思った。
「市野江さんを嘘つき呼ばわりするのをやめてください。
警察の人って、みんなそんな高圧的なんですか？」
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作者名：アオ x他1人 | 作成日時：2018年3月6日 23時
