大人な対応するうきしょくん ページ32
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ずいぶんと幸せな心地だった気がする。
まるで綿菓子みたいなふあふあのお布団に横になって、羽が生えたみたいに身体が軽くて、甘い空気に包まれているような感じ。
幸せだ。今なら…何でも、素直に言えそうな気がする。
「あ、起きた」
ゆっくりと目を開ければ、猫みたいに目を細めた飛貴くんがいた。
「おはよ〜。よく寝てたね。身体痛くない?」
「…おはよ」
「ほんとはベッドに運びたかったんだけどさ、起こしちゃったら悪いかなって思って…寒くなかった?」
「だいじょうぶ」
ぽんぽん、と彼の手のひらがわたしの頭を撫でる。
どうやら幸せな夢の原因は、彼がずっと頭を撫で続けてくれていたかららしい。
横になった背中の上には飛貴くんの学ランとニットカーディガンとバスタオルが掛かっていた。
きっと色々考えて、寒くないように掛けてくれたんだろう。
素直にありがとうと言えれば良いのに、わたしはいつも何も言えない。
「…Aちゃん?大丈夫?」
「……ん?」
「目、とろんってしてる。まだ眠たいかな。寝てていいよ」
お仕事忙しいもんね〜なんて言う彼の声はとても甘い。
とろけるように優しくて、泣きたくなるほど苦しくなる。
だからこそ、素直になれない自分がきらいだ。
いじっぱりで、面白いことも何も言えなくて、優しい言葉ひとつも言えない、可愛さのカケラもない自分。
「…ひだかくん」
「んんー?」
「ひだかくんは、今、たのしい?」
まだぼんやりとする視界の中で、彼はぱちくりと目を丸くする。
それから小さな子供みたいに笑った。
「うん。めちゃくちゃ楽しいよ。たぶん俺は、世界で一番の幸せものだ」
「……おおげさ」
「ふふ。そんなことないよ」
綺麗な指先がわたしの前髪を掻き分けて、そのままおでこにキスをする。
キザな高校生だ。
触れられた部分が、熱い。
「ごはん、作っておくから。すきなだけ寝てて」
「…うん」
「おやすみ。だいすき」
ばかだね。君は。なんでそんなにまっすぐに気持ちを伝えられるんだろう。
わたしもだいすきだよ。
その言葉は喉の奥まで出掛かっても、声に出すことはない。
「飛貴くん」
「うん」
「わたし、も、……」
「あはは、大丈夫。伝わってるよ」
素直になれないくちびるを噛む。優しい指先はわたしの頬をなぞる。
こうして彼がたんと甘やかしてくれるから、わたしはいじっぱりな可愛くない女のままでも生きていけるのだ。
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りつ(プロフ) - しいさん» ありがとうございます嬉しいです!!幸せな気持ちになって頂けるようちまちまと更新していきます〜! (2017年10月2日 8時) (レス) id: 7c91888883 (このIDを非表示/違反報告)
しい(プロフ) - いつも読ませていただいては幸せな気持ちになってます!!これからの更新も楽しみにしています\(^o^)/ (2017年10月2日 2時) (レス) id: ff1ac2d1a8 (このIDを非表示/違反報告)
りつ(プロフ) - ふーさん» こちらこそお読み頂きありがとうございます〜!短い話ばかりですが少しでも暇つぶしになれば嬉しいです(*^o^*) (2017年8月21日 21時) (レス) id: 49628bd39a (このIDを非表示/違反報告)
ふー(プロフ) - りつさんのお話がまた読めて本当に本当に嬉しいです!!!!!!!ありがとうございます!! (2017年8月21日 19時) (レス) id: e57a3c666b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:りつ | 作成日時:2017年8月21日 19時