八乙女事務所所属の少女、偽りの仮面を被る【アイナナ】 (ページ6)

今日:1 hit、昨日:0 hit、合計:8,514 hit

＊5話＊ページ6

貴方said

「…君は、アイドルになる覚悟はあるの？」

てっきり自己紹介をするのかと思っていた私は、九条さんの言葉に目を見開いた。

「半端な気持ちで〝アイドル〟をするようなら、ボクはお断りだよ。」
「ちょっ、天！言い過ぎだよ！」
「…言い方に問題はあるが、それについては俺も同感だな。」
「楽まで…！」

あぁ…この人は〝アイドル〟であるということに誇りを持っているのだな、と思った。
こんな人がいる世界に、私も足を踏み入れていいのかと戸惑う。
でも…。

『私…私は、歌うのが、好き。』

3人が揉めていた口を閉じ、私の言葉に耳を傾ける。

『アイドルになる覚悟…とか、そういうの…正直、ない。でも…あなた達のライブをみて、私もあのステージに立ってみたいって思った。』

口下手な私なりに、自分の気持ちを精一杯紡いでいく。

『最初のうちは…それだけじゃ、ダメかな…。
でも、いつか…いつか、九条さん…あなたみたいにアイドルの覚悟とか、誇りとか…持てたらいいな…。』

長い沈黙が怖く、俯く。
その沈黙を破ったのはコツ、コツ、と聞こえる足音だった。
どうやら九条さんが私の方へ近づいてきているらしい。
思わず体を強張らせたが、優しい声と頭に乗せられた暖かい手に緊張を解く。

「…うん、わかった。」
『っ、え…。』

顔を上げると、優しく微笑む九条さん。

「君なりにたくさん考えたのはわかった。
喋るの、苦手？頑張って話してくれてありがとう。君の気持ち…十分、伝わったよ。」
『ぅ、あ…。』

限界だった。暖かい雫が頬を伝うのを感じた。

「ようこそ、僕らの世界へ。」