今はただそこで、何も知らずに生きていてほしいのだと。 ページ6
「こんばんは」
何の脅威もないような穏やかな声が後ろからかけられる。
茶色の混ざる少しだけ荒れた芝生の上、私の隣に腰を落とした彼。
「今はもう朝方だよ、骸君」
「おや、そうでしたか」
戯けるように笑った彼は、腰まである長い髪を無造作に芝生の上に広げる。
手入れがされていないとは思えない綺麗な髪が、芝生の禿げた土に滑るのを見て眉尻を下げる。
「…汚れちゃうよ」
「汚くないので」
伸ばした膝の上で組んでいた掌をギュッと握りしめた。
揺らめく水のドームは、ギリギリを保っているみたいで時折大粒の雨を降らせる。
湿気でジメジメとしたこの空間の中で、唯一骸君だけ居心地が良さそうだ。
「せっかく君がいいものを作ってくれたと言うのに、寝てくれないせいでなかなか逢瀬の時間がとれないですねぇ」
白衣の中に入っているリングを取り出し、居たたまれなさにそれを弄くる。
朝方のこの時間に白衣を着たままと言うことはまた寝落ちしたらしい、恭弥君に怒られてしまう。
インディゴの石にチップが埋め込まれたリング。
これは度重なる骸君との夢の中で、骸君があまりにも無理やり私の精神世界に入ってくるから、と数年前に作ったものだ。
十年前に睡眠の質が落ちたのは骸君のせいである。
「逢瀬ではないけど、これがなきゃ恭弥君に気づかれてしまうでしょう」
幻術に準ずるものを熱心に研究していた彼に死角はない、相変わらず恭弥君は骸君を毛嫌いしている。
クフフとこちらも十年たっても変わらない特徴的な笑い声、いや、少し低くなって色気も増えた気がする。
「彼も困った人だ、いつまでも囲って守っているつもりなのでしょうか」
皮肉る骸君は目の前に落ちてきた水滴で手を濡らす。
「こんなにも、不安定だと言うのに」
「…恭弥君がいなきゃ私死んでるけど、多分」
守って貰っている身で情けないが、今どこで何をしているのかもわからない彼には恭弥君も言われたくないだろう。
こんばんは、と言うことは海外か、ただたんに牢獄の中で判断がつかないのか…恐らく前者だろうが。
「死にませんよ君は」
「？」
「どうやら主催者は君に興味津々のようですし」
フワリと芝居がかった笑み中で瞳だけが笑っていなかった。
今はただそこで、何も知らずに生きていてほしいのだと。
秘密の逢瀬ってこれを言うんじゃないかな、骸君。→←盲目的だといえば、自立の仕方を覚えてしまいそうで。
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まぶぴちょこ(プロフ) - すっごく面白い話で、惹き込まれる作品でした！もう完結なのでしょうか…？どちらにせよ素敵な作品をありがとうございました！ (2022年2月25日 22時) (
レス) @page8 id: 045921842f (このIDを非表示/違反報告)
地味って便利 - めっちゃおもしろいです！楽しみにしてます！ (2020年1月2日 16時) (レス) id: 3582ac3c0b (このIDを非表示/違反報告)
サラダ(プロフ) - 紫苑さん» お返事遅くなって申し訳ありません！ありがとうございます！頑張ります！！ (2019年10月28日 0時) (レス) id: c38cbec620 (このIDを非表示/違反報告)
紫苑(プロフ) - 更新楽しみにしてました！頑張って下さい！！ (2019年10月8日 16時) (レス) id: 14ab16d7c2 (このIDを非表示/違反報告)
サラダ(プロフ) - カリンさん» お待たせしました！待っていてくださりありがとうございます。頑張りますのでどうぞお楽しみに！ (2019年10月7日 19時) (レス) id: c38cbec620 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：サラダ | 作成日時：2019年10月5日 22時
