まるで静穏を懐かしむように。 ページ48
静かな水音。
広がる青、落ちる意識。
何かに手を引かれるようにして沈んで行く意識の中で、水音に混じって聞こえる声。
A…
優しい声。
私の好きな声だ。
「Aさん」
ハッキリと呼ばれた自身の名前の近さに飛び起きる勢いで上半身を起こす。
「お久しぶりです」
呆然とする私の目の前には相も変わらず大人びた笑みを浮かべる美丈夫。
六道君がいた。
「え…？ぁ、ゆ…め？」
青と緑のコントラストを背景に立てた片膝に手をおいて、顔を覗き込んでくる彼の瞳が悪戯に細められた。
「なかなかに強情な精神世界でしたよ、貴方らしい」
お陰で標をつけなければ会いにこれませんでした、と。
「会いにって、これは夢じゃ…」
「確かに夢ではありますが、これは貴方の夢を媒体にした…そうですね、貴方の精神世界です」
「精神世界…」
確かにさっきまでの私はヴェルデさんの所有するラボの仮眠室で寝たはずだった。
「じゃあ今目の前にいる六道君は」
「本物です、会いに来ました」
理解の追い付かない頭の中で、不思議な空間に探求心を擽られてキョロキョロと回りを見渡し始める私は、やはり研究者としてしっかり刷り込まれていると思う。
手に感じるフサフサした感触は青々と茂った綺麗な芝生なのに、空を見ればまるで水のドームのように青が揺らめいている。
実に非現実的な空間だった。
「本当に君らしく静かな世界だ」
今までに見たことないほどにリラックスしている六道君を見て私までつられそうになるのを慌てて引き締める。
「い、いろいろ聞きたいことはあるけど、会いに来ましたってことはある程度無事なんだよね？」
久しぶりの再開で、しかも身の安全を心配していたのに、とてもあっさりと事もなさげに私の隣に座っている彼に脱力する。
どういう反応をしていいのか悩むレベルで平然としている六道君がええ、と得意気に笑った。
「恭弥君！凄い怪我してたんだけどっ！」
「あぁ、生きていたんですね」
悪びれもなく肩を竦める彼をジトッと見つめる。
「どうやら君を酷く寵愛しているようで…少し煽れば簡単でした」
何を言ったの…。
やぶ蛇になりそうで口を閉じた私の隣で、不思議な水の空を見つめている彼が徐に口を開く。
「君の作ったお弁当が食べたいです」
「…似合ってないよ、その一言も」
まるで静穏を懐かしむように。
力を求めているわけではないけれど。→←知らないうちに与えられる退路。
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サラダ(プロフ) - シオンさん» こちらこそ自分勝手に更新止まってしまって申し訳ないです。ただいま書いては書き直してを繰り返してますのでお見せできる文章になりましたらどうかお楽しみください！コメントありがとうございました！ (2019年9月22日 16時) (
レス) id: c38cbec620 (このIDを非表示/違反報告)
シオン(プロフ) - 続きが気になります！自分勝手かもしれませんが、どうか更新よろしくお願いします。 (2019年9月17日 1時) (レス) id: 8d841be347 (このIDを非表示/違反報告)
サラダ(プロフ) - 白露さん» ありがとうございます！ページもいっぱいになったので次は3章に入っていきます！もう少々お待ち下さい！ (2019年8月6日 15時) (レス) id: c38cbec620 (このIDを非表示/違反報告)
白露(プロフ) - とても面白くて一度に読んでしまいました。 続きが気になる…！(>ω<*) (2019年8月3日 18時) (レス) id: 5376065075 (このIDを非表示/違反報告)
サラダ(プロフ) - きさん» 返信遅くなってしまい申し訳ありません！分岐…考えたこともありませんでしたがそういうのもありですね！落ちは私のなかでは既にきまっていたようなものだったので、私が出来る限りで挑戦させていただきたいと思います！ (2019年6月29日 13時) (レス) id: c38cbec620 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：サラダ | 作成日時：2019年3月13日 19時
