月が綺麗ですね。 S.S ［完結］

・side S ページ19

帰り道、太陽を背にしてベンチに座る。


夏はよくアイスを食うけど、最近は寒くなってきて買わなくなった。


いつから、ここの公園で駄弁るようになったんだろう。


放課後デートみてぇだなと柄にもないことを思っていた。


Aと話すことは楽しい。


でも、今日はやっぱり昼休みの件が気になってしまう。


少し訪れた隙間。


翔｢話変わるけど、｣


｢ん？｣


翔｢お前、中山に告られてたよな｣


｢あ、うん。なんで知ってるの？｣


焦らないんだな。

それが少し悲しい。


翔｢俺も屋上行ったんだよ｣


｢あ、そうだったんだ。｣


翔｢なんて返事したの｣


Yesの返事が返ってきたら、メンタルやられるんだろうけど、やっぱり気になって聞いてしまった。


ある程度心の準備をしておこうと思った時、


｢ごめんなさいって。｣


ごめんなさい……？


翔｢は、｣

翔｢なんで｣


断る理由なんてねぇよな？

いや嬉しいんだけど、


｢なんでって、恋愛的に好きな訳じゃないから｣


は？


翔｢え、Aの好きな人って中山じゃねぇの……？｣


｢違うよ。笑 なんでそんなこと思ってたの笑｣


翔｢だってお前ら、委員会一緒で仲良いし、｣


｢ただ仲良いだけ。申し訳ないけど、私は友達としてしか見てなかった｣


翔｢じゃあ、｣


｢ん？｣


翔｢いや、なんでもねえ。｣


俺にも勝算ありってことか。


もう焦りたくねぇ。


幼馴染は卒業したい。


今だ、と思った。


勇気を出して右手を掴む。


｢え、？｣


手を繋いだのなんていつぶりか。


翔｢今日さ、現代文で夏目漱石やったじゃん。｣


｢う、ん｣


翔｢あの話聞いてた？｣


｢聞いてたよ。｣


翔｢月が綺麗だな。｣


授業中、言おうかと思っていたセリフ。


目の前には夕月。


きっと、夏目漱石が想定している月ではないだろうけど、そんなことは関係ない。


｢、え、？｣


緊張して少し手に力が入る。


｢ずっと前から月は綺麗でした｣


その言葉が聞こえた後、ぎゅっと強く握り返された。

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