月ノ姫＿LIP×LIP＿【染谷勇次郎】 (ページ2)

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月ノ姫＿2 ページ2

「…泣いているの？ねえ、お姫様」

塀の上からそう聞こえたことで、私ははっとして顔を上げる。

瞳いっぱいに涙を溜めて。

精一杯我慢していてもそれでも頬を伝う大粒の雫。

塀の上から聞こえた声は青年のようだった。

どれだけ拭っても溢れ出る涙に視界を覆われ、彼のことを見たくてもぼやけて見えない。

『っ、……うぅっ、…ひっく…っ』

(誰…？)

そう聞きたくても口から出るのは涙と一緒に零れ落ちる嗚咽だけ。

涙で歪んだ顔を見られたくなくて乱暴に涙を拭いながら咄嗟に顔を下げた。

「そんなに擦ったら可愛らしい顔が台無しになるよ」

何処か優しげな声がいつの間にかすぐ目の前から聞こえたと思えば、そっと指で涙を拭われる。

ビクッと小さく肩を震わせてもう一度顔を上げる。

(…綺麗)

視界いっぱいに広がる深い青。

月明かりに反射してキラキラと光る青い髪も瞳も、深い夜に似合う星空を閉じ込めているようで思わず見惚れていた。

「ねえ、どうして泣いているの？お姫様」

私と目線を合わせるように膝を着いて彼がもう一度聞く。

『外の世界、私…何も知らない』

そう口にした事でさらに涙が溢れる。

質問の答えを聞いてか、それとも泣き止まない私に驚いてか、彼がその綺麗な瞳を軽く開く。

どうして私は外の世界を知らないのだろう。

どうして知ってはいけないの？

知るのは悪いことなの？

私は、何も知ることが出来ないの…？

『ひっく、っ、…うぅっ…』

静かな広い庭に私の嗚咽だけが響く。

すると不意に頭に重みを感じた。

「それじゃあ、話そう。僕が見てきた景色。」

彼が私の頭を優しく撫でながら微笑んでそう言った。