ケージ:128 ページ32
エーミール先生は私が黙ってここを出ていこうとしたことに怒っているのだ、そう踏んで叫んだ言葉はしかし彼にとっては不正解だったらしい。
首に添えられた手に今度こそしっかりと力が籠った。明確な対立の意思。普段なら有り得ない彼の行動に、ますます頭が混乱して涙が溢れる。
「……聡明な貴女ならば、こんな馬鹿な真似はしないと思っていたのですけど。」
残念だ、と言いたげにエーミール先生は息をつき、うつ向いて震える私の顔を覗き込む。
綺麗だとしか思っていなかったオパールの瞳が、今ばかりはとても恐ろしかった。ぬらりと光るそれに視線を絡められてしまえば、呼吸さえ捕らわれたような心地になる。
「黙っていた、なんて、そんな事はどうでもいいんです。私の質問に答えてください。
誰の入れ知恵ですか。」
優しい声に糾弾されて、体がすくむ。首を押さえられている以上身動きはとれない。
小刻みになる呼吸に、感情までもが助長されてどんどんと事態が悪い方向へと転がっていくような気になる。
完全に、エーミール先生に飲まれていた。
答えなければいけないのに、あ、とかう、とかいう意味の無い母音しか紡げないこの喉が恨めしい。早く早くと急けば急くほど体は恐怖にがんじがらめにされていく。
自分の体だというのに、どうしてこうも思い通りになってくれないのだろう。
意志に反してがたがたと震える体。止めなければ。止めなければ。どうにかして止めなければ。辛うじて動く手で腕に爪を立てた。
「…………いけませんよ。」
首を押さえていない、もう一方でエーミール先生が私の手を取る。
「爪を立てたら。」
すり、と手のひらを指の腹で撫ぜられる。
そのままエーミール先生は私の手を口元に持っていく。
何を、と声をあげようとしたけれど、役立たずのこの口は無意味に開閉するだけだった。
手のひらに生温い温度。ぶわりと全身に鳥肌が広がって、指先が条件反射のように小さく震えた。
そのまま柔らかい何かが触れる。
唇だと理解するのに時間はかからなかった。
目まぐるしく変わる状況に、心臓の鼓動ばかりがうるささを増す。
羞恥心よりも、訳がわからない、という恐怖の方が大きかった。
やわやわと手のひらに触れていた唇が、そっと指を食んだ。息を飲む。
硬直して冷えきったそれを溶かすように、二度三度とエーミール先生は唇で甘噛む。
はふ、と合間に溢したエーミール先生の吐息はあまりに陶酔に濡れていて、唇が震えた。
続く (更新停止中)
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かぼちゃ(プロフ) - この作品大好きです。最高です。何度も読み返しています。主人公が可哀想で可愛い。仄暗さが最高です。更新いつまでも待ってます。 (9月29日 0時) (
レス) id: af8b6c02d3 (このIDを非表示/違反報告)
さく - 続きは何処…！ (2022年11月18日 7時) (レス) @page32 id: 77c841469d (このIDを非表示/違反報告)
バカふわ - 続きと結末が気になります！ (2022年9月27日 21時) (レス) @page32 id: 95afcd7436 (このIDを非表示/違反報告)
りこち(プロフ) - すきです！！とくにz脅威さんの台詞の吃り方が天才です！！！！すき！！！！ (2021年2月21日 15時) (レス) id: 7094782543 (このIDを非表示/違反報告)
あか - とっても好きです！？！？！？！描写がとっても素敵で....更新ゆっくり待ってますね！！ (2020年5月23日 16時) (レス) id: 2c4cbba459 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ちくわ | 作成日時：2020年2月26日 20時
