ケージ:121 ページ25
この場所でひとらんらんさんに刀を向けられた日が懐かしいとすら思える。
あの時は、まだまだここに来て随分と日が浅かった。
思えば、決していいとは言えないファーストコンタクト。それをオスマンさんが助けてくれて。
とても怖い人だと思ったのもあの日だったけれど、誠実で優しい人なのだと知ったのもまたあの日だった。
そういえば、こうして三人でこの場所に集まるのも随分と久しぶりだなあ、とぼんやりと考えた。
「随分と丁寧にあげてるね。」
「あ……。」
隣に並んだのはひとらんらんさん。
「あっずるい。何？俺もまぜて。」
「お前あっちいけよ！ここはAちゃんがやってくれてるから。」
「あ……む、向かいはまだできてないです。ごめんなさい。」
「ほら。」
「ほらっていうか……いや……別にいいけどさあ。」
「ていうからんらんは？自分の仕事。」
「おれはもう終わったもん。」
二人のやり取りを頭の上で聞きながら、そっとオスマンさんを伺う。
ふわふわの栗色の髪が、ほんのりと冷えた秋の風に揺れる。伏せられた睫毛は長くて、柔らかな彼の物腰と相まって女性的な雰囲気を醸し出している。
花が似合う、なんて、男の人には失礼なのだろうか。何とはなしにそんなことを考えていると、オスマンさんがふと顔をあげた。ばっちりと視線があう。
「……んふ。なに？見とれとった？」
「……へ、い、いや。あの……いえ……。」
「こら。いじめんな。」
悪戯っぽく笑うオスマンさん。
何とも言えずに、花の水やりに集中するフリをして目をそらした。
しばらくの間、無言が落ちた。
レンガ造りの花壇に腰かけて、ひとらんらんさんはぼんやりと沈んでいく太陽を眺めている。
私とオスマンさんも、無言で花に水をやり続けた。
さあ、と吹き抜ける風が、肌に心地いい。
怖いくらいに、穏やかで満ち足りた時間だと思った。
緩やかにすぎていくそれを肌で感じながら、これで最後なのだと、何回思ったかわからないその言葉を私はもう一度咀嚼する。
「春になったら、今度はチューリップが咲くよ。
……君にも見てほしいな。」
ぽつり、と。
そっと落とすように、ひとらんらんさんが呟いた。
噛み締めるような、静かな静かな声だった。
「はい。」
きっと。
じょうろの中の水が空になる。
ぼたり。
最後の一滴が重たい音を立てて土に落ちて、じゅわ、と吸い込まれていく。
私はその時初めて、ひとらんらんさんに嘘をついた。
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かぼちゃ(プロフ) - この作品大好きです。最高です。何度も読み返しています。主人公が可哀想で可愛い。仄暗さが最高です。更新いつまでも待ってます。 (9月29日 0時) (
レス) id: af8b6c02d3 (このIDを非表示/違反報告)
さく - 続きは何処…！ (2022年11月18日 7時) (レス) @page32 id: 77c841469d (このIDを非表示/違反報告)
バカふわ - 続きと結末が気になります！ (2022年9月27日 21時) (レス) @page32 id: 95afcd7436 (このIDを非表示/違反報告)
りこち(プロフ) - すきです！！とくにz脅威さんの台詞の吃り方が天才です！！！！すき！！！！ (2021年2月21日 15時) (レス) id: 7094782543 (このIDを非表示/違反報告)
あか - とっても好きです！？！？！？！描写がとっても素敵で....更新ゆっくり待ってますね！！ (2020年5月23日 16時) (レス) id: 2c4cbba459 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ちくわ | 作成日時：2020年2月26日 20時
