だって、おまえだけは特別やねんで！【zm】 ページ23
くた、と体から力が抜けた。
ごうごうと炎が家屋を舐める音がする。深夜。数時間前の心地のいい静けさは、今や無だ。木の崩れる音と、炎の踊る音だけ。
それもそのはず。もはや、この村に彼と私以外、生きている人間などいないのだから。
月明かりすらなりを潜める夜。
彼の瞳のグリーンがひどく不気味に、煌々と光る橙を反射している。濁ることのないその瞳には、瓦礫を背に呆けた私が映っているのだろう。
「……あ、あ！おった。探してたんやで？」
数日前に湖畔で会った時のまんまの気軽さで、ゾムくんが片手をあげる。あまりに自然なものだから、私までこんばんわゾムくん、なんて呑気に挨拶してしまいそうになる。
惨憺たる周りの光景と、彼の手に握られた斧と火打ち石さえなければ。
彼のシンボルのような迷彩のローブは、もう模様の判別すらつかない。今はただ一色、真っ黒に染まってしまっている。フードの中の白い肌まで、煤やら何やらで真っ黒だ。
異様な鉄臭さをまとって、彼が私に歩み寄る。パキンと足元で音がした。踏んだのは枝か、それとも別の何かかなんて、想像もしたくない。
「どいつもこいつも人んことバケモン呼ばわりするんよ。なんでやろ？おれ、ほんとは仲良くしたかったのに。なあ。」
こてんと首を傾げる。本当に悲しそうにするのだから、それが彼の内の狂気を殊更に雄弁に語る。
__おお、なんておぞましい！奴は悪魔の子だ。
__違いない。あの笑い方を見たか？鬼そのものだ。汚らわしい。
ああどうか、そんな事を言わないで！
彼が、ゾムくんが村の皆から酷い扱いをされているのは知っていた。でも彼は、皆が言うような人じゃなくて、ちゃんと優しい人で。私はそれを知っていたから、村の皆にも彼の良さを知ってほしくて、ずっと、ずっと。
どうして？どうしてこんなことに。
「オマエのこと、殺さんように気を付けんの、がんばってん。連中、多かってんな。外から見ただけじゃわからんなあ。後から後からぞろぞろ沸いてくるの、ほんまダルくて。虫かって。でも、おかげで見分けすぐついて、助かったわあ。
だってあいつらの目、目！
目がな、アカン。オマエはあんな目でおれのこと見いひんもん。だからすぐやったった。んふ。」
血のついた斧と火打ち石を大事そうに抱えて、ふわりとゾムくんが笑う。その笑顔はどこまでもどこまでも無垢で、邪気がない。
到底、さっきまで村の皆の頭を薪でも割るかのように真っ二つにしていた人だとは思えなかった。
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上原蒼(プロフ) - この小説めちゃくちゃ好きです。寥、銀世界、を読んだときに心がきゅっとしました。語彙力なくてうまく伝えられないのですが、こんな感じのすきなのでテンション上がりました((更新頑張ってください応援してます。 (2020年3月19日 20時) (
レス) id: 908de47cf9 (このIDを非表示/違反報告)
ちくわ(プロフ) - ラスさん» ラスさんはじめまして。コメントありがとうございます。ぜひぜひ！自分の描いた文章が漫画になるなんて夢みたいです……嬉しいです。差し支えなければ、完成した際にはぜひ私にご一報ください。(見たいので！！) (2020年3月18日 18時) (レス) id: bceee2f54e (このIDを非表示/違反報告)
ラス(プロフ) - 大変失礼だということは充分承知しております。が、どうしても欲求が抑えきれず、このようなお願いをしている形になります。もちろん個人観賞用ですので晒したり、自作発言などは一切しません。良いお返事が帰ってくることを期待しております。よろしくお願いします。 (2020年3月18日 10時) (レス) id: b23ccd4b10 (このIDを非表示/違反報告)
ラス(プロフ) - 初めまして。好きでs(((失礼しました。敬愛する貴方へ。を読ませていただきました。文の中に惹き込まれるような素敵な物語でした。ここで失礼を申してお願いがあります。個人観賞用として物語に沿った漫画を書かせていただきたいのです。(続きます) (2020年3月18日 10時) (レス) id: b23ccd4b10 (このIDを非表示/違反報告)
ちくわ(プロフ) - ビリーさん» お返事が遅くなりすみません。申し訳ない、だなんてそんなことはないですよ！好き、だけで充分です。とっても嬉しいです。ありがとうございます。 (2020年2月24日 9時) (レス) id: bceee2f54e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ちくわ | 作成日時：2020年1月13日 21時
