ケージ:74 ページ27
唐突に呼び捨てにされて戸惑った。ひとらんらんさんから呼び捨てにされたのは初めてだった。
はい、と一拍置いて小さく返す。マスクの下の表情は窺えない。
ただ、赤い瞳が不安に揺れていた。
「なに考えてたの?」
「……な、にも」
「嘘だ。」
遮るようにそう言ってひとらんらんさんは眉を下げた。見透かしているように言い切る。
いつに無く強い口調。
そんなつもりじゃなかったのだろう。ひとらんらんさん自身も戸惑ったのか、ほんの少し肩が揺れて。
__やがて、ぽつりと溢した。
「……Aちゃんがずっと、ここにいてくれたらいいな。」
「……。」
「俺は……あんまり、縛りたくない。君には、幸せになって欲しい。けど。」
けど、とひとらんらんさんが繰り返す。
今にも消え入りそうな声。
あー、と小さくひとらんらんさんが唸る。くしゃりと前髪をかいて困ったように微笑んだ。
「……君がいなくなったら、みんな悲しむからさ。大事なんだよ。」
だから、と。
そう言ってひとらんらんさんが力なく笑う。泣きそうにすら見えた。手を伸ばそうとして、止めてしまった。
震えてしまうかもしれない、と思ったから。
もう見えない猫の影を追う振りをして、そっと柵の向こうに思いを馳せる。
ゆっくりと傾いていく太陽。
私はいつかここを出て、外の世界に行くことはあるのだろうか。
漠然と、その答えは否、な気がした。
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えある。 - zmさんかわです。天才がここにいるっ!主さん神ですね!応援してます〜 (2023年4月6日 10時) (レス) @page16 id: 9c1c96d73e (このIDを非表示/違反報告)
(名前) - ゾムさんが可愛すぎるっぴ…キャラ崩壊してるっぴ。いつものかっけえゾムさんどこ言ったんだ……最高 (2020年4月13日 15時) (レス) id: ca685f05f7 (このIDを非表示/違反報告)
ちくわ(プロフ) - (´ω`)ウドンタベタイさん» コメントありがとうございます。お褒めの言葉、もったいないくらいです。とっても嬉しいです。自己満で書き始めたものですが、少しでも多くの人に楽しんでもらえれば幸いです。 (2020年2月26日 20時) (レス) id: bceee2f54e (このIDを非表示/違反報告)
ちくわ(プロフ) - neccoさん» コメントありがとうございます。アワ……めちゃめちゃ恐縮ですが嬉しいです。応援もありがとうございます、こつこつがんばっていきます。 (2020年2月26日 20時) (レス) id: bceee2f54e (このIDを非表示/違反報告)
(´ω`)ウドンタベタイ - ちくわさんの書く小説ほんと好きです!語彙力があるところ、表現の仕方がとても素敵です。リピーター続出ですね(*´-`) (2020年2月25日 22時) (レス) id: 43fae56533 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ちくわ | 作成日時:2019年9月29日 11時