ケージ:68 ページ21
トントンさんに腕を引かれ、今度こそ大人しく後をついていく私の背中に、ゾムさんの「いってらっしゃい。」という声がかかった。肩越しに小さく頭を下げて談話室を出る。
振り返ることはできなかった。
振り返れば、またゾムさんが、笑っている気がしたから。
***
談話室を出てしばらくして、トントンさんが掴んでいた私の腕を離した。
「……すまんな。痛かったやろ。」
「い、いえ。平気です。」
「……俺力強いから。知らん内に痛い思いさせるかもしれへんから、言って。」
「……はい。」
先ほどまで気が立っていた様子のトントンさん。そんな彼の思いがけない言葉に小さく首を振ると、また労るような言葉が返ってきて、ほんの少し動揺する。
トントンさんは少しだけ怖いけれど、優しい人だ。
「あの……。ぐ、グルッペンさんは、」
「……ああ、ええんやあの人は。どうせ捕まっとるやろし。」
「……。」
「怖かったか。」
「！」
先を歩いていたトントンさんが、少しだけ歩くスピードを緩める。
「あの人が、怖かったか。」
トントンさんの静かな声。
薄暗い廊下に、二人分の靴の音が響く。
不自然な間。
一瞬言い淀み、私は声を潜めて少しだけ、と小さく頷いた。
「……そーか。」
含むようにそう言って、トントンさんは歩みを早める。
後ろ姿から彼の表情は窺えない。なんとなくそれ以上声をかけられなくて、黙り込んだ。歩きながら説明する、と言われたものの、トントンさんがそれ以上口を開く様子はない。
規則的に揺れるマフラーをぼんやりと見つめる。
深い赤に、脳裏にグルッペンさんのあの瞳が甦る。
殺気じゃない。武器ももっていない。殴られそうになった訳でもない。けれど私はあの時、どうして彼を拒んだのだろう。
なにかとてもよくない気がして、怖くて、わからなくて。
グルッペンさんが嫌な訳じゃない。彼は、怖いけれど、私なんかをここに置いて優しくしてくれる人だ。それはわかっている。
じゃあ、拒んだのは、グルッペンさんじゃないのか。
彼じゃないとしたら。彼自身、ではないのだとしたら。
私は、なにを拒んだのだろう。
「ついたで。」
思考に沈みかけていた意識が、ふわりと浮上する。
こちらを振り向いて、トントンさんが扉のノブに手を掛けた。
「俺の仕事部屋や。入り。」
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えある。 - zmさんかわです。天才がここにいるっ!主さん神ですね！応援してます〜 (2023年4月6日 10時) (
レス) @page16 id: 9c1c96d73e (このIDを非表示/違反報告)
（名前） - ゾムさんが可愛すぎるっぴ…キャラ崩壊してるっぴ。いつものかっけえゾムさんどこ言ったんだ……最高 (2020年4月13日 15時) (レス) id: ca685f05f7 (このIDを非表示/違反報告)
ちくわ(プロフ) - (´ω`)ｳﾄﾞﾝﾀﾍﾞﾀｲさん» コメントありがとうございます。お褒めの言葉、もったいないくらいです。とっても嬉しいです。自己満で書き始めたものですが、少しでも多くの人に楽しんでもらえれば幸いです。 (2020年2月26日 20時) (レス) id: bceee2f54e (このIDを非表示/違反報告)
ちくわ(プロフ) - neccoさん» コメントありがとうございます。アワ……めちゃめちゃ恐縮ですが嬉しいです。応援もありがとうございます、こつこつがんばっていきます。 (2020年2月26日 20時) (レス) id: bceee2f54e (このIDを非表示/違反報告)
(´ω`)ｳﾄﾞﾝﾀﾍﾞﾀｲ - ちくわさんの書く小説ほんと好きです！語彙力があるところ、表現の仕方がとても素敵です。リピーター続出ですね(*´-`) (2020年2月25日 22時) (レス) id: 43fae56533 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ちくわ | 作成日時：2019年9月29日 11時
