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第玖拾弐戦 琴 ページ45

三日月宗近は東から究極のマイペースだと言われていたが、それ以上な気がしなくもない。最も究極のマイペースなのは古備前派の鶯丸だが、長門がそれを知るのは随分先の話である。

◆◇◆

結局、長門もやる事が無く、フラフラと本丸内を歩き回っていると、離れの方から何か音が聞こえた。物音と言うよりは、何かの楽器の音色のようだった。
そっと離れの入り口を覗くと、入り口から見て左側の吹き抜けにした薄暗い和室の中で、白装束の青年が琴を爪弾いていた。

「鶴丸、さん……?」

「ん……?あぁ、長門か、どうかしたかい?」

恐る恐る声を掛けると、鶴丸はゆっくりとこちらを顧みた。弦を弾く指には、琴爪を嵌めている。鶴丸は立ち話も何だから、上がって来いと手招きした。
長門は言われた通り、靴を脱いで座敷に上がると鶴丸の隣に腰を下ろすと、彼はもう一度、琴線を軽く弾く。少し間延びした低い音が薄暗い室内に溶けていく。

「これは……?」

「俺を顕現した主が買ってくれた琴だ。俺にとっては随分馴染みの深いものでな……。とはいえ、長い間触れてなかったから、忘れちまって全く曲になってないんだが」

皇室御物の奏でる低くも趣深い音色に、暫く長門は聞き入っていた。
大佐という地位と階級を返上して海軍を辞め、二年ほど放浪した時期に何度か琴に触れたことがある。専門的な知識は無く、楽譜は未だうろ覚えだが、一応頭の片隅には残っている。

「少し……触ってみても良いですか?」

「あぁ、良いぜ」

鶴丸に場所を代わって貰い、琴の正面に腰を下ろすと、少々古い弦を弾いた。琴爪に弾かれた琴線が奏でるロン……と低く鈍い音が薄暗い室内に反響する。

「(あぁ……懐かしい……)」

頭の片隅にある楽譜を思い出しながら、そっと琴線を爪弾いていく。隣で座っていた鶴丸は、驚いて目を丸くしていた。長門が弾いているのは、日本国の国歌『君が代』だった。うろ覚えといいながら、さほど音程を間違えていない。
新しい主が爪弾く穏やかで優しい音色に、鶴丸はじっと聞き入っていた。彼の奏でる音が鶴丸の記憶の片隅にある昔の記憶と、思い出を引き出してくる。

「へぇ……きみは琴を弾けるのか、意外に器用だなぁ」

「……基礎を少し齧った程度ですが」

「いやはや、俺からすれば十分凄い。……加羅坊にも聞かせてやりたいもんだな」

軍服を纏う主は、雅事とは掛け離れている印象を持たせるが、彼は鶴丸自身が思っている以上に、様々な経験をしている。

第玖拾参戦 加羅坊→←第玖拾壱戦 足利宝剣



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大日戦(プロフ) - ふてんにぶおんぷさん» ハワイの資料館ですか!私も1度は訪ねてみたいです。私の両祖父が軍人だったのと、生まれが広島なものでよく話を聞かされていました。死が正義という時代から、死を望む時代に変わった事については、皮肉なことに国の根幹は変わってないのです…。 (2018年2月11日 14時) (レス) id: e07552d661 (このIDを非表示/違反報告)
ふてんにぶおんぷ(プロフ) - 大日戦さん» あの特攻した人の命を表す『ピイー』の音が、米軍の戦艦に突っ込んだ瞬間に『プツリ』と音が途絶える。その儚さにもう発狂しかけました。国のために命、家族すべて失うことが幸せな訳がないですよね?現代に生を得たから言えることですけど。また長文失礼しました。 (2018年2月11日 14時) (レス) id: 7ca422baae (このIDを非表示/違反報告)
ふてんにぶおんぷ(プロフ) - 分かりやすい解説をわざわざありがとうございます!(敬礼)私もハワイの博物館とかにあった特攻の資料?とか、遺書のようなものを幼い頃見ていました。今でもその時感じた憂いのようなものが晴れません。国のために命を散らすことが正義なんて・・・ (2018年2月11日 14時) (レス) id: 7ca422baae (このIDを非表示/違反報告)
大日戦(プロフ) - ふてんにぶおんぷさん» “のたまう”は、大体『言う』のニュアンスで書いております。目線は第三者のつもりですが、時々刀剣男士になったり、こんのすけになったり、審神者になったりと突然切り替わることも多々あります…。ややこしくてすみません;; (2018年2月11日 14時) (レス) id: e07552d661 (このIDを非表示/違反報告)
大日戦(プロフ) - ふてんにぶおんぷさん» あ、ありがとうございますぅぅ!退役軍人の手記や特攻隊員の遺書を拝見したことがあるんですが、やはり死への概念が今の人と全然違うのに驚かされましたね…。長門ニキは元大佐でも思考は現場寄りなので、デリケートな部分を書いていけたらと思っております…。 (2018年2月11日 14時) (レス) id: e07552d661 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:大日戦 | 作者ホームページ:https://www.pixiv.net/member.php?id=16263880  
作成日時:2016年12月18日 22時

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